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第15話 それぞれの思惑

 アクアノート北側、地上のリゾート区画。夜の闇に紛れて、2つの人影が向かい合っている。

 片や背が高く、恐らく男性だと思われる。残る1人は小柄で、シルエットからして女性だろう。

 2人は監視カメラの死角となっている、ヤシの木の裏にいる。他の職員から隠れて、秘密の逢瀬をしているのか。

 それとも、他人に見られたくない企みをしているのか。こんな場所にいる以上は、どちらかしかないだろう。

 ただ話がしたいだけならば、他にもっと適した場所がある。どちらかの部屋でもいいのだから。


「約束通り来たわよ」


 若い女性の声が発せられた。少なくとも20代か30代と言ったところか。40代以上だとすれば、少し若作りが過ぎる。


「俺の情報は、信じて貰えたと思って良いのだな?」


「ええ、とても興味深い内容だと判断したわ」


 男性の声も若く、女性とそう変わらない年齢かと思われる。だが逢瀬というには、話の始まり方がきな臭い。

 甘い空気も感じられない。だとするならば、やはり他の者には秘密にしたい類の話だろうか。

 アクアノートには、500人以上の研究者が雇われている。一般のスタッフも含めれば、総数は1000人を超える。

 AIを活用したオートメーション化が進み、研究所の規模こそ広大だが、最低限の人員で運営されている。

 そうであっても、色んな考え方の人々が居る。秘密を抱えている者が居たとしても、別段不思議ではない。


「なら俺は、雇って貰えるという事で良いんだな?」


「それはまだよ。実物を見ていないし、私が持ち帰ってからの話ね」


 開幕から怪しい雰囲気だったが、どうやら引き抜き絡みのようだ。機密情報の売買も、関係している模様。

 話の内容からして、男性はアクアノートの人間だろう。対する女性は、外部の人間だろうと予想出来る。


「これでも結構、危険な橋を渡っているんだが?」


 男性は少し、不満げな声音で話している。彼の言い分が本当であれば、今この瞬間も無理をしているのか。

 対する女性の方は、落ち着いている。あくまで冷静な態度を崩すつもりはないらしい。これも駆け引きの一環なのだろうか。


「落ち着きなさい。まだ確定じゃないというだけよ。転職の用意を進めておいて」


「あんまり待たされると困るぞ? アクアノートの保安部は、馬鹿じゃない」


 アクアノートには、保安部と呼ばれる私設の警察組織がある。情報漏洩や産業スパイ等に対処する部署だ。

 また北側の機密を守る為に、職員の定期的な監視任務にも就いている。ここでは独自の治安維持が行われている。

 彼がどの程度の情報を、売ろうとしているのかは不明だが、内容の如何によっては勾留される可能性がある。

 危険を冒しているというならば、少なくとも拘束はされるレベルだろう。でなければこうして、コソコソする必要はない。


「大丈夫よ、予定通り明日の夜――いえ、もう今夜になったわね。すぐ行動に移すわ」


「頼むぞ、あまり余裕はないんだ」


 相応の焦りを感じているのか、男性の方に余裕は感じられない。本当なら今すぐにでも、ここを出たいのだろう。

 アクアノートの保安部は、あくまでこの施設内でしか権力を持たない。出てしまえば、後はアメリカの法で保護される。

 ただし機密情報の漏洩がバレてしまえば、裁判沙汰になるのは避けられないだろう。その保護も、約束されているのだろうか。

 動いている金額が大きな施設だけに、訴訟となれば相当な額が動く筈。そのリスクを取ってでも、女性側は打診しているのか。

 その辺りは彼らにしか分からない話だ。そもそも女性が何者なのかすら、人影しか見えない現状では不明である。


「それで、貴方のプランは?」


「事前に伝えた通り、奴はリモコンで指示を出せる。それさえ奪ってしまえば、邪魔をされる事はない。北側の船着き場にボートを用意しておく。それを使って逃げ出してくれ」


 彼らは何かを、盗み出すつもりで居るらしい。逃走経路や手順について、詳しい説明を男性が行う。

 最下層から地上まで、直通となっているエレベーターの使い方。カードキーが必要となるドアの位置。

 ロック解除に必要となるパスコード。監視カメラを誤魔化せる最短の時間。細かい打ち合わせを続けていく。

 作戦の決行は本日の24時。男性が何か小さな物体を手渡す。形状までは暗くて良く分からない。


「これは?」


「例のリモコンの偽物だ。上手く活用してくれ」


「なるほど、そういう事ね」


 女性は何かしらのダミーを受け取ったらしい。それからも5分程の打ち合わせを続ける。深夜だからか、周囲には誰も居ない。

 2人以外に誰も知らされないまま、何かの計画が動き始めている。ルーカスが警戒しなければならないのは――他にも居た。

 しかし彼はそんな事を知る由もなく、彰人を酒を飲んでいる。様々な人間による思惑が、裏で蠢いていた。

 

「それじゃあ後はお願いね」


「しくじってくれるなよ」


 男性の一言に、手をヒラヒラと振りながら女性は離れていく。その姿は完全に、闇へと消えてしまう。

 男性もまた、アクアノートへと戻っていく。結局彼らが誰なのか、分からないままだった。

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