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小さな幽霊外伝

曉雨あめは七歳の少女だった。

無邪気で明るく、周囲の世界すべてに強い好奇心を抱いている、ごく普通の子どもだった。


その日、放課後の帰り道で、彼女は近所に住む許伯シュウおじさんと出会った。

許伯の表情にはどこか陰りがあり、明らかに機嫌が悪そうだった。


彼は曉雨に、

「今日は君のお父さんとお母さんは家にいない」

と告げ、自分が代わりに付き添うと言った。


許伯はよく知っている近所の大人だった。

曉雨は疑うことなく、警戒心も持たずに彼について行った。


だが、歩くにつれて、胸の奥に小さな不安が芽生え始める。


「パパとママはいつ帰ってくるの?」

「どこへ行くの?」

「まだ着かないの?」


何度もそう尋ねたが、許伯ははっきり答えなかった。

ただ口元に不気味な笑みを浮かべ、何かを楽しむような光を目に宿していた。


彼は、曉雨の中に少しずつ膨らんでいく恐怖を味わっていた。

それが彼に異様な高揚感を与えていた。


曉雨の心臓は早鐘のように打ち、小さな手はランドセルの肩紐を強く握りしめ、指先が白くなる。

何かがおかしい。

そう感じながらも、「でも、近所の人だし……」と自分に言い聞かせる。

その信頼は、虫にかじられるように、内側から少しずつ削られていった。


やがて夜の気配が濃くなり、背後から影が覆いかぶさる。

曉雨は震える声で、もう一度尋ねた。


「許伯……わ、私たち、どこへ行くの……?」


見知らぬ森の景色が広がり、胸の奥で警鐘が鳴る。

それでも彼女は、長年知っている隣人を信じようとしていた。


許伯は口角をつり上げ、軽い口調で、しかし圧迫感のある声で言った。

「心配するな、小雨。君の両親に頼まれたんだ。今日は私が面倒を見る。帰りは遅くなるそうだ。

先に私の小屋で遊ぼう。君の好きなキャンディもあるぞ」


彼は手を伸ばして曉雨の手を取ろうとした。

曉雨は一瞬ためらい、その目に異様な光を見て、身を引いた。

足早に歩き、距離を取ろうとする。


だが、本能的な抵抗も虚しく、彼女は許伯の力強い腕に抗えなかった。

無理やり引きずられ、陰鬱な小屋へと連れ込まれる。


簡素な木造の小屋だった。

薄暗い灯りの下で、許伯の顔には狂気が浮かんでいた。

その視線だけで、曉雨は全身が凍りつくのを感じた。


床に投げ捨てられ、彼女は反射的に身を丸め、頭を抱え、恐怖に満ちた目で許伯を見つめた。


許伯は近づき、さらに歪んだ笑みを浮かべて腰をかがめる。

「お前たち、子どもってのはな……」


独り言のようにつぶやきながら、彼は曉雨の小さな手を掴み、強く握りしめた。

悲鳴が上がり、涙と恐怖が溢れ出す。

逃れようともがくが、力は及ばない。


許伯は鋭いナイフを取り出した。

その目には憎悪と狂気が渦巻いている。

刃が曉雨の弱々しい身体を切り裂き、血の線がいくつも刻まれた。


甲高い叫び声が小屋に反響する。

涙と血が混じり合っても、彼の行為は止まらなかった。


彼はほとんど錯乱した様子で彼女を押さえつけ、叫んだ。

「叫べよ! いつもはうるさいくせに! ハハハ!」


その笑い声は、残酷な快楽に酔った狂気そのものだった。


曉雨の身体は、風前の灯火のように、彼の支配の中で力なく震える。

最後の力を振り絞って助けを呼ぶが、応える声はない。

冷たい壁だけが、絶望を跳ね返した。


やがて抵抗は完全に途絶えた。


許伯は手を離し、満足そうにその身体を眺めた。

粗い縄で吊るされた曉雨の身体は、壊れた人形のように宙に揺れている。


冷笑を残し、彼は小屋を後にした。

その遺体は、外界から隔絶されたその場所で、静かに朽ちていく。


静寂。

死そのもののような沈黙。


朦朧とした意識の中で、曉雨は深い淵から浮かび上がるように目を開けた。

目に映ったのは、光を失った自分自身の身体。

小屋の中央で、不自然に揺れている。


彼女は茫然と手を伸ばす。

だが指先は、その身体をすり抜けた。


「――っ!」


悲鳴が小屋の静けさを切り裂く。

口を押さえても、恐怖は止められない。


震えながら、彼女は理解した。

自分は、もう生きていない。


「……死んじゃった……」


かすかな声が、小屋の中に虚しく響く。

半透明になった自分の手と身体が、それを否定しようのない現実として突きつけていた。


涙が滲む。

まだ叶えていない夢も、伝えられなかった想いも、すべてを残したまま。


曉雨の魂は町を彷徨い始めた。

見慣れた通り、人々の姿。

だが誰も彼女に気づかない。


家の近くに戻ると、掲示板に貼られた捜索願が目に入った。

そこには自分の写真と、

「この少女を知りませんか。長期間行方不明」

という文字があった。


遺体は発見されず、彼女は行方不明児として扱われていた。


家に入る。

ドアをすり抜け、懐かしい居間へ。


家族は今も彼女を探し、無事を信じて待っている。

窓辺には、彼女が大切にしていたぬいぐるみが、帰りを待つように座っていた。


胸を締めつけるような悲しみが込み上げる。

「ここにいるよ」と伝えたい。

だが声は、虚空に消えるだけだった。


やがて彼女は、小屋の近くへ戻る。


ある日、退屈しのぎに山道で車に向かって飛び出して遊んでいた。

身体は車をすり抜け、窓越しにさまざまな人の姿を見る。

真剣な運転手、眠る助手席の人、後部座席でお菓子を食べる子どもたち。


最後に飛び出した一台の車が、避けた。


急ブレーキ。

車は止まり、女性が慌てて駆け寄ってくる。


曉雨は笑った。

だがその光景は、筱月シャオユエにとって異様だった。


手を伸ばした瞬間、曉雨の手は彼女の腕をすり抜ける。

筱月は、自分が幽霊のせいで事故を起こしかけたことに気づき、顔をしかめて立ち去ろうとした。


しかし曉雨は、ずうずうしく助手席に座り、両手を挙げて言った。


「私、いい子にするよ! 出発しよう、お姉ちゃん!」


冷たくあしらわれても、離れなかった。

彼女にとって、それが死後に掴んだ、たった一つの救いだったから。

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