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小さな幽霊の願いを果たして

翌日、筱月さつきは小幽霊の願い通り、曉雨あめの両親を訪ねた。

家の前に立ち、深く息を吸ってから、そっとインターホンを押す。


扉を開けた両親の顔には、はっきりと疲労と悲しみの色が浮かんでいた。


筱月は静かに頭を下げ、穏やかに言葉を選ぶ。


「突然すみません。

お辛い最中だとは思いますが……どうしても、お伝えしたいことがあるんです。」


一拍置いてから、ゆっくりと続けた。


「曉雨ちゃんは、ずっとお二人のことを想っています。

とても愛していました。

だから、どうか……あまりご自分を責めないでください。」


「もう、苦しんではいません。

これから、新しい人生へ向かう準備をしているんです。」


その言葉を聞いた瞬間、両親の表情にさまざまな感情が交錯した。

張りつめていた哀しみが、少しずつ和らいでいく。


「……じゃあ、雨は……今も、私たちを見ているんですか?」


母親が震える声で問いかける。

目元は赤く腫れ、涙が滲んでいた。


筱月は、静かに頷いた。


「はい。

ずっと、そばで見守っています。

だから……悲しみすぎないでほしい、と。」


父親は妻の手を強く握りしめ、涙を浮かべながら言った。


「……あの子は、きっと天国から守ってくれているんだ。

だからこそ、私たちは……生き続けなきゃいけない。」


「娘の分まで、ちゃんと。」


そのとき、曉雨の魂が、そっと両親の前に姿を現した。

彼女の身体は、少しずつ透き通り始めている。


それは、別れが近い証だった。


曉雨は、久しぶりに見る両親を見つめ、やさしく微笑む。

胸の奥には、温かさと感謝が満ちていた。


「パパ、ママ……もう、行くね。」


その声は、かすれるほどに小さい。


「今まで、いっぱい愛してくれてありがとう。

とても幸せだったよ。」


「だから……どうか、泣かないで。

もう、痛くないから。」


曉雨の身体は、霧のように薄れていく。

最後に、両親の顔をしっかりと見つめて、静かに告げた。


「……大好き。」


次の瞬間、彼女の魂は、そよ風に溶けるように消えていった。

その場には、涙に崩れる両親の姿だけが残る。


筱月は少し離れた場所で立ち尽くし、

胸に広がる空虚さを、ただ静かに受け止めていた。


家へ戻った筱月は、暮れゆく空を窓越しに見つめ、静かに息を吐いた。

ソファに腰を下ろし、思考を巡らせる。


曉雨が、ようやく解放されたことに安堵しながらも、

心の奥には、言葉にできない感情が渦巻いていた。


目を閉じると、記憶がよみがえる。

家の中を飛び回り、悪戯ばかりしていた小さな幽霊。

驚かせては笑い、落ち込んだときには変顔で励ましてくれた。


あの笑い声。

あの仕草。


筱月の口元には、かすかな微笑みが浮かぶ。

しかし、その瞳には、消えない寂しさが宿っていた。


——もう、会えない。


それは確かな事実だった。


胸の奥に深く刻まれたこの出来事は、

哀しみと同時に、かけがえのない思い出として残り続ける。


筱月はゆっくりと息を吸い、震える感情を押し込める。

それでも、目元は潤んでいた。


「……次の人生では、どうか。

幸せで、穏やかでありますように。」


その祈りは、静かに夜へと溶けていった。

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