表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

小さな幽霊の遺願……

その夜、筱月さつきは悪夢を見た。


自分の意思とは関係なく、身体が小さな少女のあとを追っていく。

見知らぬ男が少女の腕を掴み、人里離れた森の奥、朽ちかけた木造の廃屋へと連れていく光景だった。


少女は必死に抵抗し、助けを求めて声を上げる。

けれど、その力は大人には到底及ばない。


やがて少女は木屋の中へ引きずり込まれ、そこで——

残酷な最期を迎えた。


もがき苦しむ少女の姿を、筱月はただ見ていることしかできなかった。

胸が締め付けられ、耐え難い痛みが込み上げる。


やがて窒息するような苦しさが消え、

少女の亡骸は縄で固く縛られたまま、木屋の中に放置された。


筱月は夢の中で叫び声を上げた。

けれど、何ひとつ止めることはできない。


これまでに感じたことのない無力感と怒りに襲われ、

気づけば涙が頬を伝っていた。


筱月は勢いよく目を覚ました。

全身は汗で濡れ、心臓は激しく鼓動している。


目の前には、小さな幽霊が静かに漂っていた。

あまりにも現実味のある夢に、筱月はまだ震えが止まらない。


「……どういうことなの?

あんな夢、今でも手が震えてる……」


拳を強く握りしめる筱月の表情には、隠しきれない動揺が浮かんでいた。


「ごめんなさい……怖がらせるつもりじゃなかったの。」


小幽霊は俯き、申し訳なさそうに小さく声を落とす。


「……あれは、私が生きていた頃に遭ったこと。

今でも思い出すと、怖くて……」


ゆっくりと顔を上げたその瞳には、深い悲しみが宿っていた。


「私の身体……まだ、あそこにあるの。

お姉ちゃんが車で私を見かけた、あの辺り。

ずっと見つからないままで……みんな、私はただの行方不明の子だと思ってる。」


「伝えたかったの。でも……どうしても、誰にも届かなかった。」


その言葉を聞いた瞬間、筱月の身体が強張った。

先ほどの悪夢が脳裏によみがえり、背筋を冷たいものが走る。


こんなにも無邪気な小幽霊が、

そんな悲惨な過去を背負っていたなんて——。


筱月はそっと手を伸ばし、慰めようとする。

しかし、その指はやはり虚しく空を切った。


深く息を吐き、筱月は強く言い切る。


「……必ず、あなたの遺願を叶える。

今から、あの木屋へ行く。

あなたの身体を、きちんと見つけて、ちゃんと弔う。」


その瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。


立ち去ろうとした筱月は、ふと足を止め、振り返る。


「……あそこで味わった苦しみ、本当に悔しくて、悲しい。

でも、私ができることは全部する。

あなたが、ちゃんと安らげるように。」


心からの言葉だった。


小幽霊はその言葉を聞くと、ぱっと笑顔になった。


「もう、痛くないよ。

……たぶん、私の身体、すごくひどいと思うけど。

お姉ちゃん、びっくりしないでね?」


筱月は小さく微笑む。


「……できるだけ、頑張るわ。」


夢で見た場所を頼りに、筱月は人里離れた廃屋へ向かった。

近づくにつれ、胸の奥に不安が広がっていく。


心の準備はしていた。

それでも、目を背けたくなるような光景を想像してしまう。


——それでも。


小幽霊の遺願を果たすため、筱月は歯を食いしばり、足を止めなかった。


やがて、目的の木屋に辿り着く。

一度、大きく深呼吸し、意を決して扉を押し開けた。


鼻を突く腐臭。

荒れ果てた室内。


そして——

縄で縛られ、無残な姿で宙に吊るされた小さな身体。


首元には、はっきりと残る痕跡があった。


強烈な吐き気に襲われながらも、筱月は必死に耐え、

震える視線で少女の遺体を確認する。


涙が、止まらなかった。


——どうして、こんなにも優しそうな子が。

——どうして、こんな運命を。


筱月は震える手で警察に電話をかけた。

発見の経緯と現場の状況を、できるだけ冷静に説明する。


「……私の名前は筱月です。

森を通りかかったとき、この木屋が気になって……中を確認したら……」


疑われないよう、言葉を慎重に選びながら、

自分は通りすがりであること、異変に気づいて通報したことを伝えた。


ほどなくして警察が到着し、

パトカーの赤色灯が夜の森を照らし、サイレンが静寂を切り裂く。


現場は封鎖され、捜査が始まった。


先頭に立つ警官が、筱月に向き直る。


「通報、ありがとうございました。

後ほど、詳しくお話を伺いますので、ご協力ください。」


筱月は静かに頷いた。

これは、専門家に委ねるべき重大な事件だ。


その後、警察署で事情聴取を受け、

筱月は覚えている限りのことを、正確に語った。


警官たちは真剣な表情で記録を取り、最後にこう告げる。


「ご協力、ありがとうございました。

本日のところはお帰りください。

進展があり次第、こちらからご連絡します。」


筱月は頭を下げ、警察署を後にした。


夜風が、ひどく冷たく感じられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ