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物語のはじまり

その夜、筱月さつきは車で山道を走っていた。


次の瞬間、道端から突然、七歳前後に見える小さな女の子が飛び出してきた。

筱月は心臓が跳ね上がり、反射的に急ブレーキを踏む。


車は激しくスリップし、しばらく路面を滑った末、ようやく停止した。


筱月は慌てて車を降り、少女の無事を確かめようと駆け寄った。


少女は道路の中央に立ち、不安そうな表情を浮かべている。

何か恐ろしい出来事に遭ったばかりのようだった。


慎重に近づきながら筱月は思う。

目の前にいるのは、確かに生きているはずの小さな女の子——

それなのに、言葉にできない不気味さが胸をよぎる。


「大丈夫? 急に飛び出してきたから、びっくりしたよ」


気遣うように声をかけた、その瞬間。


少女は不意に、奇妙な笑みを浮かべ、筱月の手首を掴もうと手を伸ばした。


小さな手が、筱月の手首を——

すり抜けた。


氷のような冷気が腕から全身へと走る。


筱月は息を呑み、瞬時に理解した。

目の前にいるのは生きた人間ではない。

——幽霊の少女だ。


「……あなた、幽霊なの?」


眉をひそめ、苛立ちを隠さずに呟く。

危うく事故を起こしかけた原因が、幽霊だったと知って。


少女はにっこりと笑い、整った白い歯を見せた。


「うん!そうだよ、わたし幽霊!

お姉ちゃん、わたしが見えるんだね!すごーい!」


無邪気にはしゃぐ様子に、筱月は言葉を失った。


眉間にしわを寄せ、不機嫌そうな表情のまま、彼女は踵を返す。


車に戻り、ドアを閉め、

幽霊の期待に満ちた視線を無視して、エンジンをかけようとした。


——これ以上、厄介な存在と関わる気はない。


しかし。


エンジンをかけようと顔を上げた瞬間。


幽霊の少女は、すでに助手席に座っていた。


満面の笑みで、両手を高く掲げながら。


「ちゃんとお利口にするから!

さあ行こ、お姉ちゃん!」


筱月は深くため息をつき、力なく首を振る。


車外に誰もいないことを確認すると、ゆっくりと車を走らせた。

警戒心は残したまま、とりあえずこの図々しい幽霊を助手席に乗せることを受け入れたのだった。


帰宅すると、筱月は幽霊を無視し、そのまま自室へ向かう。


いつものように鍵を取り出し、ドアを開け、

中に入るとすぐに閉めた。


幽霊の少女は楽しそうに後をついてきたが、

ドアが閉まったことで、初めて自分が締め出されたことに気づく。


一瞬きょとんとした後、

勢いよくドアにぶつかり、頭に衝撃が走った。


「いたっ!

お姉ちゃん!開けて!中に入れて!」


扉を叩きながら叫ぶが、返事はない。


筱月は部屋の中で、ただ静かに腰を下ろし、目を閉じた。


そして、忘れたくても忘れられない、あの過去を思い出す。


——かつての自分は、あまりにも無邪気だった。

幽霊に興味を持ち、親切に接していた。


「……昔の私、本当に馬鹿だった」


自嘲するように呟き、視線にかすかな悲しみを宿す。


彼女はかつて、一体の悪霊と友達になったことがある。

その悪霊は優しい幽霊を装い、

彼女を道路へ誘導し、車に轢かれそうになった。


その出来事をきっかけに、

周囲からの疎外と恐怖が重なり、

幽霊への嫌悪感は日増しに強くなっていった。


「……あれから、私は幽霊を信じなくなった」


低く呟き、胸の奥に複雑な感情が広がる。


気持ちを落ち着かせようと目を閉じても、

先ほどの出来事が脳裏を離れない。


ドアの向こうにいる、あの小さな幽霊。

可愛らしい存在であるはずなのに、

彼女に、忌まわしい過去を思い出させてしまうのだった。



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