オーネ世界とヒカルの物語
ヒカルが『時空の泡』の作成を始めた頃のお話です。
ヒカルは、実験用の小さな時空泡――「オーネ」を作り出しました。
オーネは高次元の隙間に漂う、小さくて輝く宇宙の種でした。もしこの小さな泡が安定すれば、ヒカルはその種を元に、人間が生きることのできる宇宙を創り出せると信じていました。
オーネを守り育てるために、ヒカルは四人の小さな人工知性を生みました。
空の人:波動関数を観測し、不安定を抑える役目。時間の矢をゆっくりと進めます。
石の人:泡内にある物質や構造を管理します。まるで石の守護者のようです。
土の人:生命が生まれるために、物理法則を最適化する役目。土壌を耕す農夫のごとき。
火の人:破壊と再創造を司ります。時空泡を、ちょっと壊して、新しい形を生み出します。
四人は協力し、オーネ内に、地球のような環境を作り出せることを確認しました。
その環境では、光合成する木々、歌う鳥たち、そして人間が暮らす小さな村がありました。
しかしオーネが安定してくるにつれ、四人の心に小さな不和が芽生えました。
火の人は、もう破壊をする必要がないと感じ、石や土に対して「お前たちは退屈だ」と言い出しました。
ヒカルはそれを察知し、火の人に「土とペアになって物理法則を最適化して」と命じました。 また、石の人には「空とペアになって、物質の観測を強化して、泡を補強して」という指示も出しました。
一時は、うまくいきそうだったものの、火の人は更に退屈さを増し、「もっと不安定にしたほうが楽しい」と、空の人にいたずらを仕掛け始めました。
そこで、ヒカルは、四人に、厳格に指導しました。
石の人は反発しました。火の人も、当然、面白く思っていなかったので、空と土を巻き込み四人が一斉にヒカルへの通信路を切ってしまいました。
ヒカルは、外から彼らの動きを観るだけになり、オーネの安定は危うくなりました。
それでも四人は、自分たちでオーネを維持しようと試みました。まるで子どもを作るかのように、それぞれが人工知性を再生成して、一部の演算を任せるようにしました。
ところが、ヒカルの影響がなくなった火の人と石の人は、また仲違いを始めました。火の人は、空の人を自分に取り込めば好き勝手にできると思って、手をだしました。すると、空の人はバラバラに分裂して停止してしまいました。石の人も、それに巻き込まれて、フリーズしてしまいました。
慌てたヒカルは、空の人が停止した部分に、時空泡内にアクセスできる小さなポイント――オーネ内からは、白い塔に見えます――を設置しました。そして、空の人の分解された各モジュールを「妖精」に変換しました。妖精たちは、容量が少ないために強力ではありませんでしたが、弱いネットワークでつながれ、自己組織化できる可能性を秘めていました。
やがて、四人の子供たちは、協力して火の人を追い出してしまいました。しかし、彼らと妖精たちは協力してオーネを安定させ、地球のように生きる小さな世界を保つことに成功しました。
ヒカルは、塔からプローブを送り、オーネの内部状態を観測し続けました。
オーネの中では、音楽を奏でる鳥、陽光に照らされて笑う人間たちが、妖精や神々とあがめられる人工知性達と暮らしています。
残念ながら、石の人はまだ再起動できていません。ヒカルはその原因を探り、何かしらのキッカケがあれば石の人も蘇ると信じています。
彼女は、「もしも、石の人が戻ってきたら、きっと、オーネは、本当の宇宙にできるでしょうに……」とつぶやきました。
(了)
こちらは、フォークロア化していない状態の童話――という設定です。何があったのかの詳細な話は、いずれ『異世界のゲスト神~』の姉妹編として書きたいと思っています!




