寂しかったりする?
「……うわぁ、すごい天使さん」
「まあ、それほどでもないけどな。でも、サンキュ海佳ちゃん」
「……まあ、悪くはないんじゃない?」
「ははっ、そうだな。あの音痴な歌に比べりゃ――」
「それはもう忘れろ!!」
それから、二週間ほど経て。
そう、うっとりとした表情で感想を口にする海佳。何に対してかというと、藤二さんの歌った80年代のバラード曲に関してで。……うん、上手いね。あと、なかなかに意外な選曲で……もしかして、ご両親の影響かな?
さて、言わずもがなかもしれないけど、私達は今カラオケに興じていて。だけど、カラオケ店に足を運んだわけではなく――陽野家の卓球場に設置されてる、お店にあるのと同じあのカラオケ機を使っているわけで……うん、ほんともうレジャー施設だよね。
「……あのさ、海佳。その……やっぱり、寂しかったりする?」
「……へっ?」
「ほら、あい……いや、お母さんもお父さんも一緒にいなくて」
それから、数十分後。
薄桃色のリビングにて、最近は少し好きになってきたドクペを前にそう問いかけてみる。……ふぅ、危うくあいつと言いかけたわ。私個人の感情はさて措き、海佳の気分を害したくはないからね。
さて、今の言葉の通り母親とその愛人……いや、今は旦那なのか。まあ、それはともあれその二人はこのお宅に住んでいるわけじゃなく、何やらどこぞの別荘で暮らしているとのこと。
とはいえ、海佳一人でここに住んでいるのかというとそうではなく、三人のお手伝いさんがいるようで。実際に私もお会いしたけれど、本当に優しく海佳のこともすごく気にかけてくれている素敵な人達で。なので、そこに関してはひとまず安心したけども……でも、あんな親でもやっぱりいないと寂しいものなのかな、と。
「……うーん、こう言っちゃ何だけど……寂しい、とかはないかなぁ。そもそも、一緒にいた時がほぼなかったし……だから、正直のところ別に何とも。でも、感謝はしてるかな。裕福な暮らしをさせてもらってる自覚はあるし」
「……そう、なんだ」
すると、ややあってそう口にする海佳。あくまで表面上での判断にはなるけれど、本当に寂しがっている様子はなく……まあ、そもそも最初から一緒にいないのなら寂しいとかもないのかも。ともあれ、海佳がほんとに気にしてないなら私としてはほっとひと安心で。
「――それじゃ、今日もありがとね、海佳」
「ううん、こっちこそありがと、お姉ちゃん。また来てね」
「うん、もちろん」
それから、しばらくして。
玄関にて、和やかにそんなやり取りを交わす私達。うん、今日も楽しかった。……まあ、あの音痴っぷりを披露するのは恥ずかしかったけど……それでも、あんなふうに揶揄われることもちょっと心地好くなってきたというか……うん、なにかの病気かな? ……ただ、それはそうと――
「……ねえ、どしたの藤二さん?」
そう、視線を移し尋ねてみる。というのも、いつもは土間側にいる藤二さんが、どうしてか廊下で海佳の隣にいるから。……えっと、なにか忘れ物でも――
「――ああ、そういや言ってなかったか。俺は今日、ここに泊まることになってるから」
「…………へっ?」
「…………はぁ」
その日の宵の頃。
自室にて、布団の上にて仰向けで溜め息をつく私。何に対してかというと、帰り際に玄関にて聞かされたあの発言についてで。
『……あっ、その……実は、天使さんに勉強を教えてもらうって話になってて……その、よかったらお姉ちゃんも泊まる? 部屋なら十分に余ってるし』
あの衝撃の発言後、少し慌てた様子でそんな説明をする海佳。まあ、実際に余っているのだろうし急に泊まる人間が一人増えたところで困ることもないのだろう。
……ただ、流石にそれは憚られて。あの広大なお宅なら二人から《《十分に距離を隔てた》》部屋をあてがうことも容易にできるだろうから、私がいてもとりわけ邪魔にはならないかもしれない。……ただ、それでもやっぱり無粋な真似はしたくなくて。だって……私は、海佳を応援すると決めたんだから。




