親睦会?
――パシッ!
「…………くっ」
「おいおい、どうしたよ星佳ちゃん。ひょっとしてもうギブアップか? さっきまでの威勢はどうしたよ?」
「……いや、まだまだこれからだから。あの悪魔に目にもの見せてやろうね、海佳」
「……いや、悪魔って……あんなに優しいのに、天使さん」
「だよなあ、海佳ちゃん。あっ、疲れたなら遠慮なく休んでいいからな。あと、よかったらマッサージとかするよ?」
「なんか海佳には優しくない!?」
それから、数十分後。
悠然と笑みを浮かべる美男子へと、息を切らしつつもどうにか闘志を見せる私。一方、相棒たる海佳はそうでもないようで、どころか藤二さんを悪魔扱いした私に抗議を……あれ、もしかして私が独り? なんかめっちゃ寂しんだけど。
……まあ、海佳の気持ちも分からなくはない。というのも、あの悪魔ときたらさっきから私にはあんな嫌な感じなのに海佳にはなんか優しく……いや酷くない!? 姉妹差別は禁止だって道徳の授業でも習ったよねぇ!?
……まあ、そんな義憤はさて措き――およそ3メートルの距離で向かい合う私達の手には、それぞれ小さな木製のラケット。そして、15センチほどのネットを立てたテーブルを挟み姉妹二人であの悪魔と対峙しているわけで。
さて、遅ばせながら経緯を説明すると……うん、するまでもないかな? 親睦会、という意外とマトモな藤二さんの提案から、なるべく早く打ち解けるにはやっぱりスポーツがいいんじゃないかという話に。そして、地下に卓球場があるとのことでこうして……うん、もはや驚くことでもないんだろうけど……すごいね、お家に卓球場があるの。これから通わせてもらおうかな、無料で。
「……はぁ、疲れたあ」
「お疲れ、お姉ちゃん。はい。……その、天使さんもお疲れ様です」
「うん、ありがと海佳」
「サンキュ、海佳ちゃん。ほんと優しいな」
「……い、いえそんな!」
ともあれ、卓球開始からおよそ一時間後。
ぐったりと床に座り込み呟いていると、労いの言葉と共にミネラルウォーターのペットボトルを差し出してくれる可愛い妹。……ところで、藤二さんに対してはなんか……まあ、何となく察せはするけども。
「……にしても、ちょっと大人げなくない? いたいけな中高生に花持たせてやろうとか思わないの?」
「はぁ? そんなことして勝って嬉しいのかよ?」
「そうだよお姉ちゃん。負け惜しみはみっともないよ」
「敵しかいないのここ!?」
ともあれ、そこで飄々としてる美男子へとそう問いかける。すると、まるで軽蔑したような表情で答える藤二さん。そして、更には海佳までもが呆れたような……あれ、私が悪いの? あと、なんで藤二は息一つ切らしてないの? 結構動いてたと思うんだけど。
……ただ、それはそうと……まあ、ほんとは分かってるけど。あんなこと言ってるけど、こいつはきっと本気じゃなかった。いや、そこまで手を抜いていたわけでもないだろうけど……それでも、展開が一方的にならないように、私達が戦意喪失しないように――私達が、最後の最後まで全力で勝負を楽しめるように調整してくれていた。……まあ、そう言ったところで絶対に頷いてくれないんだろうけど。
「…………ふぅ」
それから、数時間ほど経て。
自室にて、布団の上でぼんやりと天井を眺める私。なんか、昨日と今日だけで三年分くらい疲れた気が……いや、流石に言いすぎかな?
……ただ、それにしても……うん、よもや妹に出会すとは。そして、何より驚きなのは実は妹がいたという衝撃の事実にそこまでは驚かなかったということで。……うん、何を言ってるんだろうね私は。
……まあ、それはともあれ……うん、やっぱり嬉しいな。お父さんのことを思うと、手放しで喜ぶのは少し申し訳なくなるけれど……それでも、半分は血の繋がった妹だもん、やっぱり可愛くないはずがなくて。だからこれからも仲良くしたいし、幸せになってほしいと心から思う。
……だけど……どうにも名状し難いこの苦痛は、いったいどうすればいいのだろう。




