どこの俳優さん?
「……ったく、何のんびりしてんだ。すっかり待ちくたびれたわ」
それから、少し経過して。
閑散とした住宅街にて、隣からそんなことを言う長身の美男子。申し訳なくも遥香の誘いに断りを入れ、今こうして彼と二人で歩いているわけで。
そして、この光景だけを見るとカップル――とまではいかずともそれなりに仲の良い男女に映るためか、先ほどからちょくちょく妬ましそうな視線を感じないこともなく……まあ、そうなるのも無理ないか。みんな、あの悪魔のような本性を知らないわけだし。……ただ、それはともあれ――
「――いやなんなのあれ!!」
そう、ありったけの声で叫ぶ。すると、ふと近くを通りかかった一組の男女がビクッと……あっ、その、ごめんなさい。
「……はあ? 何言ってんだお前」
「いや何言ってんだはあんただよ!! なんなの、さっきのあれ!! 心臓止まりそうだったんだけど!!」
「いや、昨日言ったはずだが。学校まで迎えに行くから待ってろって」
「いや言ったけど!! でも、まさかあんな晒し上げみたいことされるとは夢にも思わなかったわ!!」
「……ったく、晒し上げとか大声で言うなよ。人聞き悪りいな」
「人聞きじゃなくあんた自身が悪なんだよ!!」
その後、大きな声で応酬を交わしつつ歩みを進める私達。いや、大きな声は私だけだけど……あと、その間にも通りかかった人達から怪訝なご視線を……うん、ごめんなさい。
「……ほんと、もう止めてよねああいうの。基本的に目立つの苦手なんだから、私。急に来てあんなことされるだけでも相当目立つのに、しかもそれがあんたみたいな美……いや、何でもない」
ともあれ、続けてそう告げるも自身で留める。……うん、流石に口にするのは癪だしね。
……ただ、そうは言っても……うん、ほんと綺麗だよね、こいつ。艶やかなストレートの黒髪に、凛とした切れ長の目。そして、陶器のように透き通った肌。更にはスタイルも非常に整っていて、筋肉もきっとほど良く引き締まっているであろうことが服越しにも……うん、ほんとどこの俳優さんって感じの。まあ、とは言え――
「……なんだよ、さっきからずっとジロジ……ああ、俺の美貌に見蕩れてんのか」
「……そんなわけ、ないでしょ」
すると、ややあって揶揄うような笑みでそんなことを言う藤二さん。そんな彼に、少し目を逸らし呟くように答える私。……ぐっ、無駄に鋭い。まあ、絶対に言わないけども。
「……それで、結局どこに行くのよ?」
ともあれ、じっと見上げそう問い掛ける。目を逸らしたくなる衝動を、どうにかぐっと抑えながら。行くところがある、とまでは聞いていたけど、どこかまでは教えてくれなくて……いや、なんでよ。よもや、ハッと驚かせてやろうなんて意外なお茶目心を持ち合わせて――
「――着いたぞ、星佳」
「…………へっ?」
そんな馬鹿みたいな想像の最中、ふと呆れたように告げる藤二さん。……うん、バレてたの? 私の妄想。
ともあれ、さっと切り替え彼の視線を追うと――そこには、白を基調とした何ともご立派な邸宅がおはしまして。……うん、こんなのあったんだね。わりと近くなのに知らなかったわ。




