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悪魔の美男子  作者: 暦海


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2/4

復讐

「…………そっか」



 それから、10分ほど経て。

 そう、ポツリと口にする。今しがた、藤二ふじさんの話が終わったばかりで。……うん、きっとまず伝えるべきことは――


「……その、うちの母が本当に申し訳ありません」

「……いや、なんで謝んだよ。あんたもれっきとした被害者だろ」


 そう伝えると、呆れたように告げる藤二さん。さっきまでとは打って変わった表情に、むしろこっちが拍子抜けになってしまう。



 ともあれ、話の内容は――端的に言うと、多額のお金を騙し取られたようで。藤二さんのお母さまと私の母はかつて同じ職場に勤務――それも、上司と部下の関係にあったとのこと。


 そして、私の母は退職後しばらくして、その時の縁を利用し藤二さんのお母さまへ連絡。どうしてもお金が必要だと言葉巧みに説明、更には人の好い彼のお母さまに情に訴える形で借金をさせてまでお金を騙し取ったとのこと。そして、お父さまも同じくらいに人が好く、献身的なお母さまの行動を称賛こそすれ止めることはなかったとのことで。


 なので、当時高校生だった藤二さんだけがお母さまのお話に疑念を感じ、それは騙されてる、だから目を覚ましてほしいと何度も耳に胼胝たこができるくらい言ったものの、あの子はそんな子じゃない、かつての部下が困っているのだから助けてあげないと、とまるで聞き入れてくれなかったとのこと。


 そして、実は騙されていたのだとご両親が気がついた時には既に手遅れ――完全に精神こころが壊れてしまったお二人は、食事もほとんど取らず日に日に衰弱。そして、さながら示し合わせたかのようにほとんど時を同じくして息を引き取ったとのことで。……うん、謝って済むお話じゃないけれど……その、本当に申し訳ありません。



 その後、独りとなった藤二さんは親戚の家に預けられた。だけど、その親戚ひと達が引き取ったのはあくまで世間体を気にしてのこと――あからさまに厄介者と見做みなされていた藤二さんは、日々居心地の悪さを感じていた。

 そして、高校卒業と共に就職――藤二さんと親戚の人達、双方の望んだ通り就職これを機に家を出て一人で暮らし始めたとのことで……うん、共感しかないね。まあ、私の場合は高校生の今の時点で解放されている分、彼と比べれば随分とマシと言えそうだけど。



 ところで、ご両親の被害に関し、私の母を詐欺罪で訴える――ということもできなくはなかったかもしれないけど、それは望み薄だったとのこと。当事者であるお母さまが訴えを起こしていないこと、そして藤二さん自身はお母さまの……それも、私の母を完全に信用しきっている時のお話でしか知らないので、詐欺を立証し得る証拠に相当に乏しいとのことで……うん、本当に申し訳ない。……だけど、今すべきは――



「……うん、事情は分かった。本来なら、全然知らない人にこんな話をされてもとても信用なんてできないだろうけど……でも、信じるよ。他の人ならともかく、私の母なら平気でやりかねない話だし。

 でも、あんたの話は信じるけど、あんた自体を信じるとなれば話は別。それはそうだよね? いくら退っ引きならない事情があって、私がその憎き相手の娘だからって、こんなふうに有無も言わさず拘束するような人なんて信用なんてできるはずかない」

「まあ、だろうな」

「……でも、あんたの言う通り……確かに、あんたの目的は私の望みでもあると思う。だから……うん、ひとまず話に乗ることにする。私の母に復讐するっていう、あんたの話に」

「そうかい、ありがとよ」



 そう、じっと睨みつけ告げる。すると、私の返事が分かっていたのだろう、何とも得意げな笑みを浮かべる藤二さん。……うん、すっごい癪。癪……だけれど、それでも仕方がない。きっと、この話がなくてもきっといつか私自身が復讐を決意していた。ならば、これは渡りに船――折角だし、この頭のおかしい男を利用すると思えば悪い話じゃないし。……あれ、意味違ったかな? このことわざ。……まあ、何でもいいか。



 ……ところで、それはそうと……うん、流石にこれは言っちゃダメかなと。これに関しては、全く以てこいつが悪いわけじゃない……というか、全く以て誰も悪くないしご両親にも本当に申し訳ない。……ない、のだけども――



「……いや、そうそういないよね? こんなにも、名前と実質がかけ離れてる人も」

「ははっ、よく言われるわ」






「…………復讐、か」



 それから、数時間後。

 自室にて、布団の上で仰向けになりつつそんな呟きをこぼす。もちろん、今日の件――あの頭のおかしい美男子との件についてで。


 ……いや、ほんとびっくりだよね。別に、あの女が他の人からも恨みを買っていることには全く意外じゃない――と言うか、あれ以降は品行方正に生きている、なんて方が私にとっては天地がひっくり返るほどの衝撃なくらいだし。


 だけど……よもや、本気で復讐を計画するほど恨みを抱いてる人に、あんな不可解極まる形で出会うことになろうとは。……うん、それにしてももうちょっとあったよね? こう、もうちょっとマシな出会い方が。……まあ、それはともあれ――



「…………よしっ」


 そんな声と共に、さっと立ち上がり消灯。だけど、まるで眠れる気がしない。……まあ、理由は分かりきってるんだけどね。今更ながら、未だかつて覚えのないほどに昂揚している自分がいるからで。


 

 


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