対面
「……まあ、何となく分かってたけど……こう、なんか違う感がすごいというか……」
「……まあ、言いたいことは分かるわ」
それから、数十分後。
眼前におはする光景に、些か呆気に取られつつそんなやり取りを交わす私達。目の前には、この豊かな自然の中においてあまりに似つかわしくないご邸宅。いや、お宅自体はほんと綺麗なんだけど……うん、やっぱり大事だよね、相性って。
……まあ、そんなことはどうでもいい。そんなことより――
「……ここに、いるんだよね? あいつが」
「ああ、間違いねえよ」
そう、改めて尋ねてみる。すると、改めて確信を込め答える藤二さん。……うん、とうとうここまで来た。とうとう、あの憎き女と対め――
「――突然の来訪、申し訳ありません。こちらは――」
「いやいやいやいやいや!!」
「ん? なんだよ星佳。こっちはいま――」
「だから心の準備をさせて!! お願いだから!!」
「……いや、まだできてなかったのかよ」
すると、ふとインターホンを鳴らし挨拶をしようとする藤二さん。いやお願いだから心の準備をさせて!! 前にもこんなのあったけど!!
……まあ、今回は私自身の責任でもあるけど。海佳の時とは違って、今回は私も明確に目的が分かってるわけだし。……ただ、そうは言っても、いざその時となるとやっぱり緊張し――
「――おや、お客さまでしょうか?」
「…………へっ?」
「――改めてですが、本日は遠路遥々お越しくださり本当にありがとうございます、黒崎さま、藤二さま」
「……あの、本当にご迷惑じゃなかったですか? アポもなしに、突然お伺いしてしまって」
「いえ、滅相もありません。まさか、奥さまのご息女が会いにきてくださるなんて……奥さまも、たいそうお喜びになることでしょう。それにしても、とてもお優しい彼氏さまですね。こうして付き添ってくださるなんて」
「……へっ? あっ、その……はい」
「ええ、そうなんですよ。こいつには勿体ない素敵な彼氏だと巷でも評判ですから」
「どこの巷だよ」
「ふふっ、たいへん仲のおよろしいことで」
それから、ほどなくして。
外観に違わず豪華絢爛な邸内を、和やかな(?)雰囲気で会話を交わし歩いていく。いやどこの巷だよ。……まあ、学校でそれっぽいこと言われたことは少し……いや、わりもあるけど……でも、魅力あるよね? 私だって。ほら、だって少しも魅力がなきゃ……こう、私とああいう行為をする理由もないわけだし。……うん、思い出したらまた熱くなってきた。
ともあれ、案内してくれているのはこの邸宅のメイド長さん。アポなしの突然の訪問でどうなることかと思ったけど、こちらの奥さまの娘ですと伝えたらすんなり受け入れてくれて。と言うのも、あの女の下で勤務なさっているだけあって彼女は海佳のことを多少なりともご存知らしく、それで海佳によく似ている私を見た瞬間にピンときたとのことで。
そして、彼氏云々についてだけれど……うん、そういう設定で話を通したわけで。まあ、これが一番すんなり通りそうだしね。
尤も、言い出したのは私でなく藤二さんだけど……うん、お願いだから事前に言っておいて? この場で急に言われるとかほんと焦るから。それでもどうにか話を合わせた自分を誰か褒めてほしいくらいで。
ともあれ、そんなこんなで大広間の前へと到着。そして、ゆっくりと扉を開けるメイドさん。恭しい所作でどうぞと仰る彼女に謝意を告げ、ゆっくりと中へと足を踏み入れ――
「――あら、久しぶりね星佳」
「……っ!!」
刹那、身体が凍る。……いや、驚くことじゃない。そもそも、ここはこいつの家――なので、ここにいるのは当然だし……そもそも、こいつに用があってここに来たんだから。なので、震える唇をどうにか開き返事を口にする。
「……久しぶりだね、お母さん」
「……あの、奥さま、黒崎さま……?」
その後、ほどなくそう口にするメイド長。久しぶりの親子の再会には似つかわしくない、何とも異様な雰囲気を感じ取ったのだろう、その声音や口調から、大いに困惑していることが十分に伝わって。……うん、申し訳ない。だけど、こちらとしても今はお答えしている余裕もなくて。
さて、改めてだけど――視界に広がるは、ちょっとした舞踏会でも開けそうな絢爛豪華な大広間。そして、そのほぼ真ん中にある眩く光る白のテーブルにて優雅に腰かける一人の女。年齢を感じさせないその若々しい美貌に、もしかすると見蕩れてしまったかもしれない――あの憎き母親でさえなければ。
「それにしても、こんな山の中までわざわざ会いに来てくれて嬉しいわ、星佳。それから、そちらは星佳の彼氏さん? とっても綺麗で、おばさん見蕩れちゃう。ところで、もう食事は済んだかしら? 二人とも。もしもまだだったら、これから一緒に――」
「……ねえ、お母さん」
その後、徐に立ち上がる母。そして、こちらへ近づきつつ嬉々とした口調で話しかける。だけど、そんな彼女の言葉を遮り呼びかける私。そして――
「……この人に、なにか言うことない? 昔、貴女がお金を騙し取った相手がいたよね? ……と言っても、一人や二人じゃないんだろうけど……それでも、貴女の職場の上司、って言えば分かるよね? それで、騙されていたと知ったその女性と旦那さんがショックのあまり食事も手につかなくなって、次第に衰弱して、それで死んじゃったんだけど……この人、藤二天使さんはそのご両親の息子さんなの」
「……星佳」
そう、じっと睨みつつ口にする。すると、すぐ隣からポツリと声が。きっと、驚いているのだろう。私自身でなく、真っ先に彼のことに触れたことを。……うん、私もびっくり。それでも、自分でも驚くくらいに自然と口をついて――
「……ああ、あの馬鹿な女のこと? ええ、言われて思い出したわ。……そっかぁ、死んじゃったんだぁ。それはそれは可哀想に」
「……っ!!」
すると、事も無げにそう告げる母。そこには悪意すらも感じない、本当に何とも思っていないことが十分すぎるほどに伝わって――
「……ゆる、さない……」
……ポツリと、言葉がもれる。そして――
「――ああああああああああああああああああぁ!!!!」
「――やめろ、星佳!!」
気がつけば、駆け出していた。ポケットに忍ばせておいた折り畳みナイフを、けたたましい叫びと共にあの女へと真っ直ぐに向け、そして――
「………………へっ?」
直後、動きが――呼吸が止まる。私が突き立てたナイフ――その刃は、母ではなく……どうしてか、つい先ほどまで隣にいた美男子の背中へと刺さっていて。そして間もなく、刺した箇所からコート越しにも鮮明に赤く染まり始めて――
すると、茫然自失とする私へ徐に振り向き微笑む藤二さん。それは悪魔などとはほど遠い、さながら彼の名を体現しているような優しい微笑で。そして、ほどなくバタリとその場へと倒れ――
「――いやああああああああああああああああああああああぁ!!!!」




