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悪魔の美男子  作者: 暦海


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12/15

言いたい言葉

「……ったく、解放されるなり急に抱きついてきやがって。それも、がっつりコート踏んづけやがって」

「……うん、ほんとごめん」



 それから、少し経過して。

 靴の跡がついた黒のコートを纏う私に、呆れたようにそう告げる藤二ふじさん。……うん、これに関しては反論の余地もない。

 さて、何が起きたのかというと――感極まり彼に抱きついてしまったわけだけど、さっと動いたため当然のこと私を覆ってくれていたこのコートもさっと外れ、それはもうものの見事に踏んづけてしまう形になったわけでして……うん、ほんとごめん。


 そして、言わずもがなだけどコートが外れたということは……まあ、あのあられもない姿のまま抱きついてしまったわけで……ああもう、穴があったら入りたい!


 


「……ところで、何か着るモンはあるか?」

「……あ、うん。一応、体操服なら」

「んじゃ、とりあえずそれ着とけよ。外、出ててやるから」


 その後、ほどなくそう言って背を向け去っていく藤二さん。そして、そんな彼に対し――


「……あの、外には出なくていいから。その、後ろだけ向いてくれれば……」

「……あっそ」


 控えめにそう告げると、背を向けたまま立ち止まる藤二さん。体操服を着るだけなのでそんなに時間はかからないけど、それでもわざわざ外に出てもらうのも悪いなと思った、というのもあるけど……このまま外に出たっきり帰ってこなかったら、なんて思うと怖くなって……いや、流石に杞憂だって分かってるけど。



 その後、すっかり暗くなった帰り道を二人で歩いていく。そして、しばしの沈黙の後――



「……ねえ、藤二さん。なんで、助けてくれたの?」


 そう、じっと見つめ問う。すると、数秒ほど私を見つめ返した後、再び視線を外し歩みを続ける藤二さん。そんな彼に、私は続けて言葉を紡ぐ。



「……別にメリットないでしょ、あんたに。それも、暴力まで振るって……私を護るためだとしても、訴えられたらただじゃ済まないかもしれないのに」


 ……違う、そうじゃない。いや、これだって本音だけど……でも、今言うべきはこんなことじゃ――


「……もしかして、贖罪のつもり? やめてよね、今更善人ぶるの。まさか、あれくらいで許されるとか思ってないよね? 海佳うみかを死なせたこと」


 なのに、出てくるのはただただ非難の言葉。もしかすると、これも本音なのかもしれない。今だって、あの件は全く以て許していないから。……だけど、それでも今言うべきは……今、言いたいのはこんな言葉じゃ――



「――別に、そんなつもりはねえよ。善人だなんて思ってねえし、許されるつもりもねえ」

「……藤二さん」


 すると、ややあって淡々と告げる藤二さん。その表情や口調から感情は読み取れない。……怒っては、いないのかな? ……まあ、私になにか言われたくらいで感情が動く人でもないんだろうけど。




「じゃあな、星佳せいか。今日のことは忘れろ……ってのは無理だろうが、まあゆっくり休め。あと、そのコートはやるよ」


 その後、少しして古びたアパート――私の住む二階建てアパートの前にてそう告げ背を向ける藤二さん。だけど、そんな彼のシャツの裾を掴む私。すると、少し驚いたような表情かおで振り向く藤二さん。……まあ、そうなるよね。たぶん、私の方が驚いてるくらいだし。……だけど、



「……怖かった。あんなの、初めてで……ほんとに、怖かった」

「……星佳」

「……だから」


 そう、呟くように告げる。そして、吸い込まれそうなほどに綺麗なそのをじっと見つめ、ゆっくりと言葉を紡ぐ。



「…………今夜は、私のそばにいて」






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