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――星間覇道 ――  すべてを失った少年貴族と、それを値踏みする女海賊が、帝国の内乱に関わる話  作者: 黒鯛の刺身♪


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第四十八話……大公国建国宣言

「各戦線が、ようやく落ち着いてきてな。やはり貴公の外交的成功が大きかったよ」


 重厚な扉の奥、広く豪奢な接見の間へユリウスは招かれていた。

 磨き上げられた床石は鏡のように光り、壁には歴代の戦勝を描いた巨大なタペストリーが並ぶ。


 正面のソファに深く腰掛けているのは、今や大公を自称するアーヴィング卿であった。


 帝国における大公とは、単なる称号ではない。

 時に皇帝代行として高位の人事を行い、複数星系の命運を左右できる――

 まさに「人臣を極めた」地位である。


「恐れ入ります」


 ユリウスは背筋を伸ばし、丁寧に頭を下げた。

 グラストヘイム要塞ではなお激戦が続いているものの、戦局は明らかに味方優勢へと傾いていた。


 要塞近隣の辺境惑星からは、次々と和を乞う使者が訪れている。


 アーヴィング侯爵はその流れを逃さず、旧第六総管区内の帝国中央に味方する勢力に対して、友邦貴族の私兵を次々に投入。

 結果として、新たに六つの有人星系を勢力圏に組み込むことに成功していた。


「失礼いたします」


 控えめな声とともに、メイドが銀のトレイに紅茶を載せて運んでくる。


 湯気の立つ香りに、ユリウスはわずかに肩の力を抜いた。

 ゆっくりとカップに口をつけた、その瞬間だった。


「貴公は……まだ結婚しておらなんだな」


 何気ない口調。

 だが、次の言葉は雷のように落ちた。


「どうじゃ。ワシの娘を娶ってはくれんかな? 辺境の英雄と名高い貴公なら、我が血族に迎えるに相応しい」


「――っ!?」


 ユリウスは、あやうく紅茶を吹き出すところだった。

 必死に咳を堪え、顔が一気に熱くなる。


 貴族の家に生まれ育った以上、政略結婚そのものに違和感はない。

 だが、幼少より子爵家の跡取りとして勉学一筋で生きてきた彼は、女性との縁に極端に乏しかった。


 その純情が、今になって露骨に表へ出てしまったのだ。


「……あ、ありがたき、幸せにございます」


 声が少し裏返ったが、言葉は間違っていない。

 寄り親とも言える大公家との婚姻は、アストレア家の隆興に直結する大事である。


 だが、ユリウスは慎重さを失わなかった。


「しかしながら……我が家の家格では、大公家と釣り合いませぬ。そのあたり、どのようにお考えでしょうか?」


 アーヴィング大公は、楽しげに口角を上げた。

「心配するな」


 彼はソファに大きく身を預け、重厚な葉巻を取り出す。

 火を点けると、甘く濃い煙がゆっくりと天井へ昇っていった。


「家格とはな、作るものだ。そして今の帝国は――作り替えの時代に入っておる」


 その言葉の重みを、ユリウスはまだ完全には理解できていなかった。




◇◇◇◇◇


「――今をもって、アーヴィング大公国の設立を宣言いたす」


 広大な大公家の謁見の広間。

 重厚な柱と高い天井の下、元第六総管区の貴族たちがずらりと居並ぶ中で、アーヴィング大公は一歩前に進み、声を張り上げた。


 その言葉が空間に落ちた瞬間、広間は静まり返る――

 かと思われたが、すぐに低いざわめきが波のように広がった。


 貴族たちは互いに顔を見合わせ、囁き合う。

 彼らが覚悟していたのは、あくまで「反ノクターンの旗揚げ」までだ。

 つまり、帝国に楯突く一時的な反乱。


 まさか、帝国を完全に脱した独立政府の樹立まで踏み込むとは聞いていなかった。

 彼らの多くは、先祖代々、帝室との関係を誇りとしてきた家系である。


 帝国を否定することは、自らの歴史を否定することにも等しかった。

 その空気を察したのか、アーヴィング大公は静かに手を上げ、ざわめきを制した。


「慌てることはない」


 低く、よく通る声で続ける。


「この建国の趣旨は単純明快だ。ノクターン家が擁立した偽帝を廃し、正当なる家紋の金印を持つ者を、しかるべき手続きをもって皇帝に据える――そのための臨時政府と考えてもらえればよい」


 貴族たちの耳が、ぴくりと動く。


「そもそも、正式な皇位は、選帝侯たる六つの侯爵家の承認なくして成立せぬ。これは、帝国建国以来の不文律である。……皆も、よく知っておろう?」


 理屈としては、筋が通っている。帝国の伝統を“否定する”のではなく、それは伝統を盾に取る形だった。


 アーヴィング大公はさらに一歩踏み込み、先帝から後事を託されたとされる勅書を読み上げた。


 文面はもっともらしい。

 だが、この場にいる者の多くは悟っていた。


 ――これは、まず間違いなく偽書だ。

 だが、それは問題ではなかった。


 彼らが必要としていたのは、結束できる理由と、掲げられるお題目だけだったのだから。

そして、大公は満を持して最後の一言を放つ。


「さらに――皆に相応しき新しき土地を分配し、それにふさわしい家格を与えようぞ!」


 一瞬の沈黙。

 次の瞬間、広間は爆発した。


「大公殿下、万歳!」

「アーヴィング大公国、万歳!!」


 疑念は歓喜に飲み込まれ、迷いは拍手の音にかき消された。

 こうして行われた大公国建国の儀は、万雷の拍手と喝采を浴び、大成功のうちに幕を閉じた。


 帝国の分裂は、理想や理念だけではなく――

 約束された地位や土地の分配によって、確定していくのであった。

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― 新着の感想 ―
太閤検地ですね( ˘ω˘ )
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