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――星間覇道 ――  すべてを失った少年貴族と、それを値踏みする女海賊が、帝国の内乱に関わる話  作者: 黒鯛の刺身♪


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第四十五話……荒鷲の金印

 大銀河を統べる帝国枢要部、その最奥に位置する一室。


 荘厳な白壁と遮音結界に囲まれた空間には、帝国各地から集められた王族たちと、その背後に控える有力貴族の顔が並んでいた。

 重厚な円卓の上には帝国紋章が刻まれ、天井から落ちる白光が、金糸の衣装や宝飾を冷たく照らしている。


 誰一人として無駄口を叩かない。

 この場に集められた意味を、全員が理解していたからだ。


「……では、ご遺言を開封いたしまする」


 沈黙を破ったのは宰相ローゼンタールだった。


 美しい指先で厳重な封蝋を割り、羊皮紙を静かに広げる。

 紙が擦れる微かな音すら、この場では異様に大きく響いた。


「……皇位継承者は――荒鷲の金印を持つ者とする」


 言葉が落ちた瞬間、空気が止まった。

 王族たちは思わず互いの顔を見交わす。


 彼らの指にはそれぞれ、自家の紋章と同じ刻印を施した特別な指輪が嵌められている。

 つまり、荒鷲の家紋を持つ王族こそが、正統な帝位継承者となるはずだった。



「……」

「…………」


 だが、誰も名乗り出ない。

 金属が擦れる音も、衣擦れもない。

 沈黙だけが、室内に重く沈殿していく。


「荒鷲の家紋を持つお方は――いらっしゃいませぬか?」


 宰相の問いかけにも、返答はなかった。


 その瞬間、ここにいる全員が悟ったのだ。

 この部屋に、帝位継承者はいない。


「そもそも……荒鷲の家紋など、聞いたこともないぞ」

「先帝の……知られざる落とし胤という可能性もあるまいか?」


 囁きが波紋のように広がり、ざわめきが生まれる。

 困惑、疑念、そして――期待。


 宰相ローゼンタールは、羊皮紙を静かに畳み、告げた。


「正当な後継者がおられぬ以上、本日はこれまで。散会といたします。改めて、帝位を持つお方が現れるのを待つしかございますまい」


「……ふむ」


 不満げな表情を浮かべる者は多かった。

 だが、その表情はほどなく消え、代わりに計算高い静かな目つきへと変わっていく。


 誰が見知らぬ帝位継承者を見つけ出すか。

 誰が最初に手を伸ばすか。


 これは言わば宝探しの始まりだった。


 重い扉がゆっくりと閉じていく。

 帝国の玉座は空席のまま、だが陰ではすでに無数の手が動き始めていた




◇◇◇◇◇


 その二十日前――。


 第五総管区の反乱を討伐すべく編成された反乱討伐総軍、四個艦隊は、グラストヘイム要塞救援のため虚空を進んでいた。

 だがその進軍は、苛立たしいほどに遅かった。


 随伴する地上軍は百四十個師団。

 巨大な兵員輸送艦、物資補給艦、野戦病院船が隊列を引き延ばし、艦列はまるで鈍重な鉄の蛇のように宙域を這っている。


 むやみに長距離跳躍を繰り返すことも出来ず、通常航行の時間ばかりが積み重なっていった。


「……もう少し速度は出んのか?」


 旗艦艦橋で、総司令官クライツ上級元帥が苛立ちを隠さず問う。

 老獪な軍人の声には、焦燥と計算が入り混じっていた。


「はっ。艦種があまりにも多岐に渡っております。これ以上速度を上げれば、輸送艦が脱落する恐れがございます」


 参謀は一礼し、慎重に言葉を選んだ。


「ここはベルナー提督の前衛艦隊のみを先遣隊として急行させては――」


「馬鹿者!」


 クライツは机を叩いた。


「グラストヘイム要塞は難攻不落だ。そこへベルナーを送り込めば、確かに寄せ集めの反乱軍は四散するだろうな。だが、その場合――その功績は誰のものになる?」


「……」


 参謀は答えられず、黙って一歩後ろに下がった。


 この場にいる高級士官の誰もが理解していた。

 抜け駆けの戦功など、最も許されぬ行為だということを。


 そもそもこの遠征は、情勢から見て「勝ち戦」ではない。

 だからこそ、功績の在り方は、周囲の空気がひりつくほどだった。



 その時、艦橋に秘匿通信の警告灯が点った。

 発信元は帝都――帝国摂政ノクターン公爵邸。


「……これはこれは、公爵閣下。ご機嫌麗しゅう」


 クライツは即座に表情を整え、恭しく頭を下げた。

 だが、通信モニター越しの言葉を聞くにつれ、その顔色が変わる。


「……は?皇帝陛下の世継ぎが見つからぬゆえ、治安維持のため速やかに帝都へ帰還せよ……ですと?」


 一瞬、言葉を失う。


「しかし、グラストヘイム要塞からは救援要請が――」


 通信の向こうで、公爵の表情は変わらなかった。

 決断は既に下されている。


 軍の進退に一貴族が口を出すなど本来あってはならぬ。

 だがノクターン公爵は、クライツ上級元帥の政治的後ろ盾そのものだった。

 つまり、拒否権は存在しない。


「……畏まりました」


 クライツは深く一礼し、通信を切った。

 直後、詰め寄る参謀たち。


「閣下、では援軍はどうなるのです?」

「まさか……勇敢で鳴る帝国軍が、味方を見捨てるなど……」


 艦橋の空気が張り詰める。

 だが、上級元帥はゆっくりと首を振った。


「断は下された。何も言うな」


 その一言で全てが終わった。

 不満と疑念を胸に抱きながらも、幕僚たちは沈黙し、敬礼する。


 こうして反乱討伐総軍は帝都へと進路を変えた。

 救援を待つグラストヘイム要塞の戦友たちが、どのような運命を辿るかを知りながら――

いつもお読みいただき有難うございます。

よろしければ採点やブックマークなど頂けると嬉しいです (*- -)(*_ _)ペコリ

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