第二十九話……第五総管区侵攻
二百隻のビーム艦が放つ硬X線ビーム砲が、旧式の宇宙要塞に一斉にたたきつけられる。
外殻のタングステン合金は即座には貫通されないが、表面は白く泡立ち、結晶構造が崩れて装甲片が剥がれ落ちる。
巨大な外殻ブロックが回転しながら宇宙へ散り、要塞の装甲は見る影もなく痩せ細っていった。
要塞も黙ってはいなかった。老朽化した砲塔群が咆哮し、粒子砲と重レーザーが反撃として放たれる。
数隻のビーム艦が直撃を受け、艦体を裂かれて炎の残骸となる。しかし火力の劣勢は否めず、反撃火力は次第に薄くなっていく。
致命的だったのは要塞の第二殻だ。ニッケル合金層は散乱した硬X線で脆化し、内部骨格が崩壊。
外殻は支えを失い、自重で裂け落ちる。併設された歴史ある貿易用宇宙港は歪み、係留中の宇宙商船が爆散して漂流する。
有力商人たちの商館区画では遮蔽壁が破断し、密集する倉庫群が焼け崩れる。
要塞司令部は理解した――これ以上の反撃は意味がないと。
やがて要塞は全砲門を沈黙させ、古い通信帯域で降伏信号を発した。
旧式の城塞は、装甲をぼろ布のように剥がされ、反乱討伐軍の前衛艦隊に屈したのだった。
◇◇◇◇◇
――ネビール回廊、制圧完了。
その報は、後方に控える主力艦隊を率いるクライツ上級元帥のもとへ、速やかに届けられた。
彼は重たい体をソファーから持ち上げ、艦橋正面に展開された巨大戦術パネルへと視線を向ける。
そこには、前衛艦隊を率いるベルナー中将の姿が映し出されていた。
「要塞内を、くまなく調査せよ」
クライツの声は低く、だが油断の欠片もない。
「爆発物は言うに及ばず、サーバー内に潜むソフトウェアの類まで徹底的に洗え」
「はっ、かしこまりました」
短い返答を残し、通信は切れる。
クライツ上級元帥の日頃の汚職や非倫理的な振る舞いは、帝国中枢の高官たちからしばしば蔑まれてきた。
だが同時に、彼がその奸計と異様なまでの用心深さによって、軍の中枢へと登り詰めてきたのもまた事実である。
前衛艦隊が、老朽化した宇宙要塞の完全制圧を終えてから三日後。
反乱鎮圧軍の主力艦隊は、慎重に艦列を保ったまま、狭隘なネビール回廊へと侵入した。
後方から続く補給艦の到着を待つ必要もあり、艦隊は要塞周辺宙域で一時停泊する。
「……ふん。もぬけの殻、というわけか?」
クライツは自ら要塞内部を視察し、吐き捨てるように呟いた。
防衛用の地上軍はおろか、目立った罠も見当たらない。
この拠点は、明らかに捨て石――そう判断するに十分だった。
「よし。ここを後方補給基地とする。物資保管区画の修理を急がせろ」
「はっ!」
命令は即座に実行に移される。
それからさらに三日後。
前衛艦隊に続き、主力艦隊もまたネビール回廊を脱し、第五総管区の有人星系へと戦力を展開していった。
静まり返った旧式の宇宙要塞は、何も語らぬまま、ただそこに在り続けていた。
◇◇◇◇◇
聖帝国暦六四四年九月下旬――。
第五総管区の各有人星系へ、反乱討伐軍は雪崩を打つように殺到した。
衛星軌道上に展開されていた防衛衛星群は次々と沈黙し、装甲揚陸艦が灼熱の尾を引きながら大気圏へ突入していく。
地表へ降り立った惑星地上軍の各師団は、組織的な抵抗を一つずつ踏み潰し、占領域を広げていった。
惑星側には、無防備宣言という選択肢も存在した。
だが――降伏を選んだ星系が、その後に辿った末路は凄惨だった。
略奪、徴発、暴行。
その噂は瞬く間に第五総管区全域へと広がり、各有人星系は追い詰められながらも、意外なほどの粘りを見せる。
「小癪な……!」
艦橋で苛立ちを露わにしたクライツ上級元帥は、即座に命じた。
「主星である惑星ヒンデンブルクへ艦隊を進めよ」
「了解!」
周辺星域を一つずつ制圧し、包囲網を狭めていくはずだった作戦は、もはや成立しない。
ならば、第五総管区の中枢を叩き、全てを一気に瓦解させる。
それが、彼の選んだ道だった。
だが――。
「……ぬ?」
ワープアウト直後、艦橋に緊張が走る。
「敵影、確認! 凡そ五百隻!」
「防衛ブロックを形成し、スクエア状の陣形を維持しています!」
クライツ上級元帥率いる約一〇〇〇隻の討伐艦隊を迎え撃つように、第五総管区防衛艦隊が待ち構えていた。
彼らは、破壊された宇宙ステーションや施設の残骸を寄せ集め、即席の防塞を築いている。
粗末で、脆く見える陣地。
しかも、数は明らかに劣勢だ。
「数の有利を活かせ!」
クライツ上級元帥の怒声が艦橋に響く。
「周辺星系から援軍が集まる前に叩くのだ。さらに、辺境星域を制圧中のベルナー中将の艦隊も呼び戻せ!」
「了解!」
命令は即座に各艦へと伝達された。
数に勝る反乱討伐軍は、両翼を大きく広げ、敵艦隊を包み込む半包囲陣形を形成しつつ、慎重に距離を詰めていく。
「敵艦隊、射程圏内に侵入!」
報告と同時に、艦橋の空気が一段と張り詰めた。
「よし……全艦、攻撃開始!」
号令が下る。
前衛に展開していた四百隻のビーム艦が、一斉に艦首主砲を解放した。
蒼白い光の奔流が宙を裂き、敵防塞へと降り注ぐ。
間髪入れず、二列目に控えていた四百隻のミサイル艦が続く。
船体下部に抱え込むように搭載された重質量大型ミサイルが次々と切り離され、鈍い閃光を残して加速していった。
数、火力、陣形――
あらゆる点で、討伐艦隊は圧倒的優位にある。
少なくとも、この瞬間までは。
艦橋にいる誰もが、そう信じて疑わなかった。




