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― 潜伏する影 ―第七章 最初の警告


鷹ノ巣の関。豊前と豊後の国境に位置するこの要衝は、かつて南蛮との密貿易で栄えた場所だが、今は黒田長政の兵が支配し、厳重な警備下に置かれていた。加藤清正の忍びは、その警備の隙を縫って、宗麟が南蛮人や京の商人と接触したという隠された窓口を探しに来ている。

伝兵衛は、二人の精鋭忍びと共に、関の裏山、深い森の中に身を潜めていた。彼らは硫黄の煙ではなく、冬の冷たい空気と、積雪のわずかな音に耳を澄ませる。

(清正の忍びは六人。全員が刀と弓。我々のような火器を警戒していない。)

伝兵衛は、岩陰から**“秘匿銃”**をそっと引き出した。銃身の冷たさが、彼の決意をより硬くする。彼は、ここで敵を全滅させる必要はない。必要なのは、大友の影が未だに豊後に存在し、彼らの活動を監視しているという、絶対的な恐怖を植え付けることだ。

狙撃手スナイパーの戦術

清正の忍びたちは、関所の裏手にひっそりと佇む廃屋、かつての密会の場に入り込んだ。彼らが探しているのは、床下や壁の隠し扉だ。廃屋の周囲は、黒田の兵の目が届かない、絶好の暗殺地点となっていた。

伝兵衛は、あえて最も遠い距離から、しかも一発で敵の指揮系統を破壊する狙いを定めた。

「静かに、そして正確に。音を敵への警告とせよ。」伝兵衛は仲間に指示した。

標的は、廃屋から出て、周囲を警戒している頭目らしき忍び。彼は仲間の中で最も体格が良く、最も傲慢な動きをしている。

伝兵衛は、火蓋を開け、火縄に火を灯した。夜闇の中で、火縄の炎が揺らめく。彼は、長年の訓練で培った集中力で、わずかな風向きと、標的の呼吸のリズムを読み取る。

ドォンッ!

夜の静寂を破る、凄まじい轟音が響き渡った。その音は、まるで地下の岩窟全体が爆発したかのように、山々にこだました。

鉛の弾丸は、廃屋の戸口から出てきたばかりの頭目の左肩を正確に撃ち抜いた。

「ぐわああっ!」

頭目は絶叫し、その場で崩れ落ちる。刀を持つ腕が破壊され、出血は激しい。

恐怖の残響

残りの五人の忍びは、瞬時に混乱した。

「火縄銃!?なぜ、こんな山奥で!」

「敵襲だ!どこからだ!」

彼らは、銃声の方向を探そうと、闇に向かって刀を構えるが、伝兵衛たちの姿はすでに闇の中に溶け込んでいる。伝兵衛は、一撃を放つと同時に、仲間と共に素早く後退していた。火縄銃の装填に時間を割く必要はない。彼の仕事は、これで終わったのだ。

敵は、相手の人数も、場所も把握できない。ただ、耳に残る凄まじい銃声と、血を流して倒れる頭目の姿だけが、彼らの現実となった。

彼らの脳裏には、数ヶ月前の石垣原の谷で、仲間が**「見えない火」**に撃ち倒されたという、不気味な噂が蘇る。

「逃げろ!大友の亡霊だ!この山には、呪われた銃がある!」

清正の忍びたちは、戦術的な判断を失い、恐怖に駆られて散り散りに逃げ出した。彼らの目的だった「隠された窓口」を探す任務は、完全に放棄された。

影のメッセージ

伝兵衛たちは、夜明け前に谷へと戻る。彼らは、敵の装備品には一切触れず、ただ一つのメッセージを残した。

頭目が倒れた場所の近くの岩に、短刀で深く刻まれた大友宗麟の家紋。その下には、硫黄の粉末が薄く撒かれていた。

このメッセージは、清正の忍びだけでなく、やがて黒田の兵、そして豊後の大名たちにも伝わる。

「大友の影は死んでいない。金も火薬も、我々が管理している。手を出せば、見えない銃に討たれる。」

数日後、茜が持ち帰った情報では、加藤清正の忍びが豊後から一時的に撤退したことが確認された。彼らは、伝兵衛の**「最初の警告」を、豊後の山中に潜む「不可視の勢力」**からの呪詛と受け取ったのだ。

伝兵衛は、地下の松明の光の中で、茜に静かに告げた。

「これでいい。武士たちの戦いは、やがて兵力と物資の消耗戦になる。我々が動くのは、その時だ。それまで、この影の国をさらに深く、誰にも見つけられない場所に隠し通す。」

大友忍軍の、武力と情報を用いた非対称の戦いが、今、本格的に開始された。彼らの**「音」**は、豊後を支配しようとする者たちにとって、最も恐ろしい存在となっていく。


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