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― 潜伏する影 ― 第六章 蜘蛛の巣の再構築


地の底に潜伏してから三ヶ月。大友忍軍の五人は、地下を単なる隠れ家ではなく、宗麟が目指した**「影の国」**の心臓部として再構築していた。

彼らはまず、外部からの情報の「流れ」を確保する必要があった。戦国の世において、情報は金銀よりも価値がある。

伝兵衛の指示の下、茜は最も危険な、しかし最も重要な任務を担った。それは、地上の要所、特に人の出入りが激しい港と宿場に、目に見えない情報網を張り巡らせることであった。

湯けむりの密使

茜が選んだ最初の標的は、別府温泉の近隣にある小さな湯治場だった。表向きは静かな宿だが、大友宗麟の南蛮貿易時代から、豊後の大名と諸国の商人が密かに接触する**「裏の社交場」**でもあった。

茜は、特殊な化粧を施し、身分を悟られないよう行商の女に化けて地底から浮上した。彼女が地下で作り上げた**「蜘蛛の巣」**の起点となるのは、過去に宗麟と関係の深かった者たちだ。

湯治場で、茜は一人の老いた薬草商人と接触した。彼は、宗麟の時代から火薬の原料となる硝石を密かに扱ってきた、大友忍軍の協力者であった。

「久しいのう、滝の影よ。まさか、まだ豊後におったとは。」老商人は、湯気の向こうで茜の姿を一瞬で看破した。

「宗麟様の遺志が、私をこの地に繋ぎ止めています。石垣原の敗北で、豊後の裏の道は一度死に絶えました。それを、再び繋ぐのが、私たちの使命です。」

茜は、老商人に金一包を渡し、依頼を告げた。

「黒田長政、加藤清正、細川忠興――これらの大名の動き。特に、彼らの間で交わされる**『密約』の噂を、この湯治場の客から聞き出してほしい。そして、以前のように、情報を『隠し湯の岩』**に残してくれ。」

隠し湯の岩。それは、湯治場の裏手にあり、硫黄の蒸気に守られた、大友忍軍だけが知る伝言板であった。

秘匿銃の「音」

一方、地下の伝兵衛は、情報網の再構築と並行して、武力の誇示のタイミングを探っていた。

大友忍軍の存在は、黒田の忍びによって「資源と共に灰燼に帰した」と思われている。この状況を逆手に取り、**「生ける亡霊」**の恐怖を植え付ける必要があった。

伝兵衛は、地下で待機する他の三人の忍びに、独自の**「影の訓練」**を課した。それは、音を立てずに、硫黄の濃霧の中を移動し、地下の複雑な坑道内で互いに射撃のタイミングを計るという、極限の訓練だった。

「我々は、数で劣る。ゆえに、一撃の確実性と、恐怖で敵を圧倒せねばならん。」

伝兵衛の持つ**“秘匿銃”は、その圧倒的な射程と破壊力で、彼らの最大の武器である。しかし、彼らはこの銃を、情報戦において「呪い」**として使用することを決めていた。

数日後。老商人からの最初の情報が、隠し湯の岩に残された。

「黒田長政と細川忠興、水面下で領地争いの動き。加藤清正の忍び、豊前国境で、宗麟の南蛮人との接触場所を探る。」

この情報に、伝兵衛は素早く反応した。

「加藤清正の狙いは、我々の外交ルートだ。南蛮人との接触場所は、豊前との国境、鷹ノ巣の関しかない。」

鷹ノ巣の関は、かつて大友氏が南蛮人や京の商人たちと密かに落ち合った場所。清正がここを押さえれば、大友忍軍は情報と物資の補給路を完全に断たれる。

「茜、お前は老商人と連携して、清正の忍びの動きを探れ。私と残りの二人は、鷹ノ巣の関へ向かう。」

伝兵衛は、再び秘匿銃を背負い、冷たい決意を固めた。

「我々は、姿を見せずに、音だけで敵を屠る。大友の影は、まだ生きている。その恐怖を、清正の忍びに叩き込むのだ。」

地底の番人たちが、再び地上の闇へと、静かに、しかし確かな殺意を持って動き出した。彼らが放つ銃声は、豊後を支配しようとする新たな大名たちへの、影からの最初の警告となるだろう。


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