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― 潜伏する影 ―第十四章 遠見の暗殺


黒田長政が豊前の反乱鎮圧に兵力を割き、加藤清正が豊後の国境で様子を伺う中、細川忠興は、虎視眈々と豊後への介入の機会を狙っていた。長政の疲弊を見るや、細川は豊後国境に近い自領の警備を名目に、精鋭の鉄炮隊を国境付近に集結させ始めた。

伝兵衛は、この動きを**遠見鏡(望遠鏡)**で正確に捉えていた。

「細川忠興は、長政と清正が互いに消耗するのを待っている。そして、我々の影の遺産を、漁夫の利で奪うつもりだ。この動きを止めねば、我々の三角の牽制は崩壊する。」

狙いの標的

伝兵衛の次の謀略は、細川軍の士気と威嚇行動の核となる人物を叩くことだった。

標的は、国境付近の細川軍を指揮する、加賀野内匠かがのたくみ。彼は忠興の信任厚い将であり、その強気の姿勢が、黒田軍に強い圧力をかけていた。

「この加賀野内匠を排除すれば、細川軍の国境での威圧は緩む。長政は安堵し、清正は細川の弱体化を疑う。再び、均衡を取り戻せる。」

しかし、加賀野内匠は、厳重な警備の敷かれた砦にいる。通常の忍びの技では、近づくことすら難しい。

ここで、伝兵衛は南蛮の遺産の真価を発揮させる。

遠見鏡スコープの目

作戦決行の夜。

伝兵衛と茜は、国境から約四百メートル離れた山中の隠れた岩場に潜んでいた。この距離は、当時の日本の火縄銃の有効射程を遥かに超えている。通常ならば、単なる**「威嚇射撃」**にしかならない。

伝兵衛は、秘匿銃の銃口を砦の方に向け、その後部に茜が持ち帰った遠見鏡を固定した。

「秘匿銃」+「遠見鏡」。それは、世界に先駆けた**狙撃銃スナイパーライフル**の原型であった。

「風は微風、北東。湿度、低い。目標の砦の松明の光が、目標を僅かに照らしている。」

茜が、周囲の状況を、息を殺して報告する。彼女は、伝兵衛の狙撃の補助と、発射後の証拠隠滅を担う。

伝兵衛は、遠見鏡を覗き込む。焦点が合うと、四百メートル先の砦の中庭にいる加賀野内匠の姿が、鮮明に拡大されて見えた。彼は、夜間警備の状況を部下に指示している最中だった。

「この距離だ。誰も、我々の位置を特定できまい。」

そして、彼は自ら開発した**改良火薬(無煙火薬)**を装填した。

地獄からの銃声

伝兵衛は息を止め、静かに火蓋を切った。

ドォンッ!

凄まじい轟音は山々に響き渡ったが、通常の白煙はほとんど上がらない。辺りには、微かな火薬の匂いが残るだけだ。

弾丸は、夜の闇を切り裂き、四百メートルを瞬時に駆け抜けた。

砦の中庭で、加賀野内匠が、「何事だ」と声を上げるより早く、その心臓を正確に貫いた。

「がっ……!」

内匠は、声にならない悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちた。周りにいた細川の兵たちは、一瞬、何が起こったのか理解できなかった。

銃声は聞こえた。だが、その煙も、弾道も見えない。彼らが認識したのは、ただただ、遠く離れた場所から、不可視の何かに頭領が射抜かれたという、超常的な恐怖だけだった。

「遠方からの暗殺だ!何者だ!?」

「大友の…呪いか!?」

細川軍は、即座に混乱に陥った。彼らは、敵が遠くに潜んでいるとは思いもせず、近くの黒田軍の密偵の仕業だと疑い、闇に向かって無差別に威嚇射撃を始めた。

伝兵衛と茜は、音もなく岩場から姿を消した。彼らが通った場所には、松脂を塗った紙が燃やされ、硫黄の臭いが微かに残された。

翌日、細川忠興の元に届いた報告は、彼の決意を完全に挫いた。

「加賀野内匠、遠距離からの不可視の銃弾により絶命。敵影不明。現場には、大友の紋章と硫黄の臭いが残されていました。」

忠興は、豊後への介入を一時断念せざるを得なかった。もし、彼がこの地に深入りすれば、自分自身も大友の影の**「遠見の暗殺者」**の標的になることを悟ったからだ。

これで、三角の牽制は再び強化された。黒田は安堵し、細川は恐怖に囚われ、加藤清正は、この新しい**「呪いの力」の正体が、自分が追う南蛮の遺産**であることを確信する。

伝兵衛は、地下で遠見鏡を丁寧に磨きながら、静かに次の戦略を練っていた。

「力とは、見せることではない。見せつけることで、敵を支配することだ。」

大友忍軍の、孤独な**「影の支配」**は、さらに深く、暗い領域へと進んでいく。


次回、伝兵衛と茜は、細川への警告が成功した今、三大大名の中で最も技術に貪欲な加藤清正を欺き、彼らの持つ南蛮の遺産の情報を意図的に流出させる謀略を仕掛けます。

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