床屋っていいもんだ
えー、床屋というのはですね、ただ髪を切る場所じゃございません。
人がちょっとだけ強くなれる場所なんです。
この前ね、小学3年生のユウくんが一人で来たんですよ。
いつもはお母さんと一緒だったんですけどね、今日は「一人で来てみた」って。
椅子に座るなり、ちょっと緊張してるんですよ。
で、ぽつりとこう言うんです。
「おじちゃん、髪切ると強くなれる?」って。
……もうね、わたし、泣きそうになりましたよ。
で、わたし、言いました。
「ユウくん、髪を切るってのはね、自分を信じるってことなんだよ」って。
そしたら彼、うなずいて「じゃあ、強くしてください」って。
……注文、ざっくりすぎるだろ!
でね、切ってる間に、店内のラジオから昭和歌謡が流れてきまして。
『上を向いて歩こう』ですよ。
わたし、口ずさみながら切ってたら、ユウくんも一緒に歌い出してね。
なんだか、床屋がタイムマシンみたいになってました。
仕上がった髪型は、ちょっとだけ前髪を上げた“勇者スタイル”。
鏡を見たユウくんが「これなら、明日の発表会、がんばれそう」って。
わたし、言いましたよ。
「髪型ってのはね、心の防具なんだよ」って。
で、帰り際にユウくんがこう言いました。
「また来るね。次はもっと強くしてね」って。
……君はどこへ向かってるんだい!
でもね、そういう一言が、床屋を続ける理由なんですよ。
髪を切るだけじゃない。
誰かの背中を、ちょっとだけ押す。
それが、床屋ってもんなんです。




