「この本とアイドルと同じ髪型」これは緊張するぜ
えー、最近はですね、髪型の注文もずいぶん細かくなりまして。
「この本の表紙の人みたいにしてください」なんて言われることもあるんです。
で、この前来たのが、大学生のユウトくん。
手に持ってたのが、アイドル写真集。しかも限定版。
「この髪型、できますか?」って言うんですよ。
見てみたら、前髪は斜めに流れてて、後ろはふわっとしてて、横は…消えてる。
いや、これ写真の角度の問題じゃないか?
でもね、ユウトくん、真剣なんですよ。
「推しと同じ髪型にしたら、ライブで目が合うかもしれない」って。
……それ、髪型じゃなくて運命の話だよ!
で、わたし、言いましたよ。
「ユウトくん、これはただのカットじゃない。これは“推しへの祈り”だ」って。
そしたら彼、椅子に座るなり手を合わせて「お願いします」って。
……ここ、理容室だよ?神社じゃないよ?
でね、切ってる間もずっと緊張してるんですよ。
「もし失敗したら、推しに嫌われるかも…」って。
いやいや、推しは君の髪型で判断しないと思うよ!
でもね、仕上がったら、これがまた…奇跡の一致。
鏡を見たユウトくん、涙目で「これ…本人より似てるかも」って。
わたし、言いましたよ。
「君の推しは、今日から君自身だ」って。
で、帰り際にユウトくんがこう言いました。
「次は、推しの冬の髪型でお願いします」って。
……季節で変えるのかい!




