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Rd.23 ブルーフラッグ・キッドナップ



戦場は光と影が交錯する無秩序な渦に飲み込まれ、

四幹部の機体が螺旋を描いて迫る。

前方席のハイドウと後方席のチハヤは息を合わせて迎撃するが、

四方向からの同時攻撃はあまりに苛烈だった。


「くっ……ハイドウ、右側もう……!」

「わかってる! でも動きが……読めない……!」


そのとき、空間が低く唸り、結界のような歪みが戦場一帯に広がった。

まるで空気ごと押しつぶされるような圧。

ハイドウはぎょっと振り向く。


「……え? ヒカリちゃん? それに……ハッチ、開いて……?」


そこにいるはずのない少女が――いや、少女に見える“影”が立っていた。

ハイドウにはヒカリに見えたが、それは錯覚だった。

そこにいたのは、満身創痍のルシアだった。

赤く燃えるような聖痕が皮膚の下で脈打ち、血の色と光の色が混じり合う。

地上にいるはずの彼女が、なぜ。

ハッチを開けてまで、なぜ戦場へ――。

理由はひとつ。

聖痕保持者を増やすための“最後の手段”。

ルシアの掌から白い波紋が走り、

二人の複座機へ向かって伸びていく。

悲鳴のような振動が機体を貫き、

二人のうち“誰か一人”。力を付与するための選別が始まる。

その瞬間を、誰よりも待っていた者がいた。

――後方席のチハヤ。


「……ついに、来た」


その声は、どこか震えていた。

喜びか、渇望か、あるいは狂気か。

チハヤはゆっくりとシートベルトを外す。

ハイドウが慌てて振り返る。


「おい! 今離れたら危――」

「大丈夫。任せてよ、ハイドウ」


柔らかな笑み――なのに、その奥に潜むのは恐ろしいほどの静寂。

裏の顔を見せた時と同じ…ハイドウの表情が凍り付く。

そう笑みを見せたチハヤはハッチを押し上げ、

外気が戦場の轟音とともに流れ込む。


「チハヤ!? あなた――!」


ルシアの視界が揺れる。

聖痕の波紋がチハヤを包み込むと、

まるで“喜びに震えるように”反応した。


「来て、ルシア。 君の力、全部……僕に触れさせて」


チハヤの声は優しい。だが瞳だけが異様に冷たく、

底の奥で光る黒紋の脈動と同じリズムで震えている。

白い波紋がチハヤを押し返そうとすると、

彼はむしろうっとりとした表情を浮かべた。


「……ああ、いいね。そんなに抵抗するんだ……たまらないな」


ルシアは一歩退きながら言葉を絞り出す。


「あ……なた……その黒紋……」


「うん。ずっと隠してたんだ。でもね、嬉しいよ。やっと――この瞬間が来た」


チハヤは胸元を裂くように服を引き下ろし、

蠢く黒紋を露わにする。

まるで生き物のようにチハヤの肌を這い、

聖痕の光を吸うように脈動していた。

ルシアは恐怖に息を呑む。


「それ……侵食されて……」

「うん。 でもね、全部ね……“君のために育ててた”んだよ?…あの人の為にさ!」


そう笑みを向ける彼は狂気そのものだった。

チハヤの手がルシアの手首を掴む。

優しげな手つきなのに、力は逃げ道を完全に塞いでいる。


「やめ……これは……違う……!」

「違わないよ。だって僕は、ずっと欲しかった。

君の光、君の痛み、君の全部が――僕だけのものになる瞬間を」


黒紋が腕を這い、ルシアの聖痕に絡みつき始める。

白い光と黒い侵食が混ざり、ふたりを中心に渦が生まれる。

ルシアは恐怖に震えながらも必死に抵抗する。


「私は……あなたを信じてる……!だから、こんな形で……!」

「信じてくれて嬉しいよ。でもね、ルシア――」


耳元で囁きながら、チハヤは絡めた指をさらに強く締める。


「僕が欲しいのは、“信頼”じゃなくて――君の“全部”なんだ」


チハヤの言葉に、ルシアの背筋が凍りつく。

その間に後方からハイドウが飛び出そうとする。


しかし――


チハヤは振り返りもせず、片手で衝撃波を叩き込んだ。


「邪魔しないでよ。 これは僕とルシアの……儀式なんだから」


ハイドウは壁に叩きつけられ、

機体AI・レイラが即座に彼の複座ブロックを切り離した。

隔離されたハイドウは、ただ外の光を見つめるしかない。

螺旋状の白と黒の光が機体全体を巻き込み、渦を形成する。

チハヤの瞳は完全に狂気へ染まり、静かに微笑む。


「行こう、ルシア。 君も、もう抗えないよね?」


ルシアは最後の意識で、隔離ポッドの向こうのハイドウへ指を伸ばす。


「――ハイ……ド……」


しかしチハヤは彼女を抱き寄せ、額を重ねる。


「もう大丈夫。君は俺のものだよ。……ねぇ、ルシア。笑って?」


その笑みは、愛と狂気の境界をとうに越えていた。

螺旋の光が空間を裂き、四幹部が静かに集まる。


「チハヤ。あなたを迎え入れる準備はできている」

「ふふ……やっとだね。さあ、行こう」


チハヤはルシアを抱きかかえ、光の裂け目へと飛び込む。

四幹部もそれに続き、渦は閉じた。

残されたのは、ハイドウの届かぬ叫びだけ。

漂う破片、血の匂い、光の残滓――

静寂が戻った戦場で、ハイドウは拳を握り締める。


「……必ず……迎えに行く……!」


誰に届くことのない誓いが、冷たい空へ吸い込まれていった。


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