表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/23

Rd.22 ダークラップ


「――ねぇ、ダイキ、どうなってる? 」


アカリの声が、遠くから聞こえる。彼女はまだ機体内にいて、

直接、戦場の空気に触れていない。

しかし、微かに伝わる波動が彼女をざわつかせた。

――ミナモから、何かが届いている。

ルシアと直接会っていないのに、なぜか頭の奥で小さな違和感が走る。

その感覚は、恐怖というより、抗えぬ“違和感”として、彼女を捕らえて離さなかった。


モニターが瞬間的に乱れ、黒いノイズが走った。

画面越しに、四機の機影が浮かぶ。


その機体からか、粒子ノイズ越しに…どこからか声が滑り込む。


「――見つけたぞ、姫よ」


その声は、機体の外からではなく、アカリの頭の奥から直接響いた。

耳ではなく、脳の皮膜の奥、思考の中に刺さるように。

言葉であり、命令であり、嘲笑であり、波として襲い掛かる。


「……な、何――」


アカリの指が握る操縦桿が小刻みに震える。

目の前のHUDも、モニターも、音声も、すべて同時に歪む。

声は途切れずに、繰り返す。


――「不要な個体は廃棄する」


通信ではなく、遠くの味方も関係ない。

アカリは自分の意識に直接侵入してくる声に、理性が引き裂かれそうになる。

スクリーンに映る味方の数値も、波動によって乱れたように見えた。


黒い粒子の触手が、テラダとイナガキの機体を襲うのが見えた。

アカリは咄嗟に操縦桿を切るが、空間の重力感覚が歪み、機体が暴走する。


「やめ……やめて……!」


アカリは握りしめた操縦桿を必死に押さえつける。

体内で感じる微かな波動は、ミナモから届いているのを感じた。

直接力を発しているわけではない。あくまで、**意識を支えるだけの微かな波**。


「どうして…私に?」


視界の隅で、テラダのコクピット内の光が脈動する。

彼の瞳は、暴走の兆候を帯びて赤く光った。

味方が武器になる恐怖。


黒い粒子がダイキとレイの機体を包み、赤黒い紋様が脈打つ。

アカリは何もできず、握った操縦桿の感触だけが頼りだった。

しかし微かに、頭の奥で跳ねる波動があった。

――ミナモからの波。

直接触れていないのに、かすかに届くその存在を、彼女は感じていた。


「……これ、何……?」


声にした瞬間、意識の奥で鋭い衝撃が跳ねた。

「お前の父親の死、知っているか?」

突然響いた男の声。その瞬間、アカリの胸が凍る。


(誰…?)


冷たい意識が、脳の隅々まで侵食してくる。

言葉ではない、波として、感情として、圧力として。

「知らないのなら教えてやろう」

突然、記憶の奥底から自分の父親の最期の姿が呼び覚まされる。


「……な、何……!」


見たことない記憶と頭の中で声が重なり、思考は引き裂かれそうになる。

敵に囲まれ、攻撃を受ける父親の機体。父親のコクピットが集中攻撃を受け、ヒビ割れてゆく――

アカリの脳内侵食が、映像と共に理性の隙間から入り込む。

コクピットが裂け、血と光が宇宙に散る――


「やめ…やめてぇぇぇ!」


顔を抑え、幾ら拒否をしても意識は有無を言わさず、脳の内側で何かが焼ける音がした。

神経が逆流し、記憶が上書きされる。

現実と幻覚の境界が溶け、痛みと憎悪が一つに混ざる。

テラスコアが赤黒く光り、アカリの瞳が心音と同じ鼓動で紫に変わって行く。


――「すべては、聖痕の姫のせいだ。怒り、恐怖。そして……従え」


四幹部の声が脳内で重なり、父の死の記憶とルシアの存在が焼き付いたアカリは

怒りと恐怖で心臓が脈打ち、息が詰まる。

ルシアの名が脳裏をよぎる。

理由もなく、血のような憎悪が心臓を締め上げる。

思考の表面を黒い波が撫で、瞳が紫に変わってゆく。


アカリは叫びながら頭を抱える。

皮膚の下を黒い脈動が這い回り、血管が光のように浮き上がる。

脳の裏側で、誰かの手が意識を掴む。

自分ではない“誰か”が、瞳の奥から覗いていた。


赤黒い波動が、意識の内側で蠢く。

触れられてもいないのに、心の奥に触手が入り込むように、思考を…全身を押さえ込まれている感覚。

アカリは必死に呼吸を整え、操縦桿を握りしめる。

しかし、脳内の侵食は徐々に彼女を飲み込み、体温が奪われる感覚に襲われた。


――その瞬間、テラダとイナガキの機体から微かな電子信号が跳んだ。

回線を通じて、AI・ルートの声と自分の機体のAI・コーサの声が直接アカリの意識に届く。

――その時。


破裂音。

ルートの通信が、ノイズを貫いて届く。


「…アカリ、しっかりして!…貴方のお父さんは無駄死になんかじゃないの!」

「冷静に、私たちに操縦系統を任せて!」


脳内で侵食が押し返され、赤黒い波動の触手が微かに揺れる。

ルートの制御が粒子の侵入を阻み、機体の制御を安定させる。

意識の奥に微かな光が差し込み、理性が再び形を取り戻す。


「……ルート……コーサ?」


微かに声を漏らすアカリ。

侵食の手はまだ迫るが、確かに防がれている。

触手が装甲を叩き、粒子が揺れる中、AIの導きによって、機体はわずかに安定した姿勢を取り戻す。


『アカリ、聞こえる? 冷静に。操縦系統、私が奪う。』

「でも、身体が――!」

『いいから! 今、ルートが敵の波を中和してる!』


ルートから発せられる赤い波が、黒い侵食にぶつかる。

空間が軋み、音のない爆音が広がる。

その反動でアカリの意識が一瞬だけ自由になる。


「……負けない……!」


血走った瞳のまま、操縦桿を引く。

黒い触手が再び押し寄せ、装甲を貫こうとするが、

ルートの波が防壁のように割り込み、触手を弾く。


「アカリ、今よ! 逃げて――!」

「……ルート、あなた本当は……!」

「行って、私は―――」


アカリがルートの異変に気付くも通信が途切れる。


同時にアカリの喉が焼けるように痛んだ。

涙が浮かぶが、それより早く、怒りの熱が理性を焼く。


「……絶対に、負けない……!」


赤黒い粒子の渦の中で、

アカリの機体は推進系を全開にして旋回。

黒い波を切り裂き、ルートの残した波動の軌跡をたどる。


四幹部の声が再び重なる。


――「逃がさない」

――「恐怖に怯えろ」

――「怒れ…抗うな」


アカリは歯を食いしばり、

操縦桿を握る手の骨が軋む音を聞きながら、叫んだ。


「うるさいッ!!!」


――四幹部の波動は強烈だ。

だが、今アカリは一人ではない。

コーサ、そしてルートが、波を遮り、理性を守る。

微かに跳ねる赤い波が、アカリの意識の灯を支えていた。


「……負けない……!」


握りしめた操縦桿に全神経を集中させ、アカリは粒子の渦の中で、

なんとか抵抗を続ける。

四幹部の声が脳に絡みつく。しかし、コーサとルートの回線干渉によって、

侵食は完全には及ばない。

宇宙空間の黒い粒子の嵐の中で、アカリの意識は、まだ微かに自分のものだった。




粒子の触手が機体を押さえつけるが、アカリは必死に操縦桿を握る。

微かな揺れに合わせ、意識の奥で届く波動が、彼女の理性を辛うじて保っていた。


「……負けない……!」


声は届かない。機体は震え、粒子がまとわりつき、脳内侵入は続く。

だが、受動的に届く微かな波動が、アカリの意識を支えた。

その波を頼りに、機体をわずかに制御し、拘束を逃れる。


通信が割れ、ミナモの声が届く。


「アカリ! しっかり! 波は俺たちが繋いでる、逃げろ!」


胸の奥で微かに跳ねる波動を感じ、アカリは機体をひねる。

触手が装甲を掴むが、赤い残光が干渉し、完全に拘束される前に弾き飛ばす。


――逃げ切れるか?

答えはまだ分からない。

ただ、**微かな波動が、彼女の理性を支えていた**。


赤黒い粒子の渦の中で、アカリは握った操縦桿に力を込める。

後方から迫る四幹部の声は、脳内に響き渡り、恐怖を押し付ける。

しかし、意識の奥で届く波動が、微かに理性を保たせる。


――まだ、負けない……。


アカリは振り絞る意志で機体を操作し、

赤い波に導かれるように、微かに方向を修正する。

背後から伸びる粒子の触手が装甲を叩くが、

干渉する微かな波が、拘束を阻む。


通信越しにミナモの声が再び届く。

「アカリ! もうすぐだ、振り切れ!」

胸の奥で波動が跳ねる。

アカリは機体を急旋回させ、触手を振り切る。

微かな波が、戦場の渦の中で理性を守っていた。


――抵抗の先にあるのは、生き残る意志と、仲間と繋がる波。


アカリはまだ立っている。

赤黒い波動が宇宙を覆う中で、微かに光る希望が戻ってきた。


「……負けない……!」


握りしめた操縦桿に全神経を集中させ、アカリは粒子の渦の中で必死に抵抗する。

侵食はまだ迫るが、ルートの回線干渉が微かに光を差し込む。

脳内で、赤い波動が跳ねた。ミナモの存在ではなく、ルートの介入による反応だ。


「アカリ、今よ。機体の自由制御を取り戻して!」


コーサの指示が回線越しに届く。

アカリは一瞬のためらいもなく操縦桿を操作する。

黒い触手状の粒子が装甲を叩き、機体を押さえ込む。

しかし、その干渉を振り切るように急旋回。


触手の束が後方に弾かれ、粒子の渦が一瞬裂けた。

その隙を突き、アカリは推進系を全開にして黒い渦から脱出する。

HUDの赤い点滅はまだ揺れているが、侵食は押し返され、

理性の灯が微かに揺らぎながらも残る。


「……これなら……!」

意識が覚醒し、わずかに反撃の選択肢が見えた。

粒子の嵐の中で、アカリは目標を狙い定める。

赤黒い触手が迫るが、微細に残った機体制御を活かし、推力と旋回で巧みにかわす。


コーサとルートの支援がある限り、侵食は完全に身体を奪えない。

アカリは短く息をつき、次の動きを考える。

その瞬間、黒い渦が再び迫るが、彼女の手は確実に操縦桿を握り、

粒子を切り裂くように動く。


「……まだ、負けない……!」

意識の奥で微かに光る理性と、二人のAIマシンの支援が合わさり、

アカリは反撃の一歩を踏み出した。

四幹部の精神汚染が押し寄せる中、彼女は黒い粒子の渦を避けつつ、

仲間と合流するための軌道を取る。

波動はまだ戦場に渦巻いているが、アカリの意志は微かに確実に存在していた。


――「逃がさない……!」

四者の意識が一斉に侵入し、アカリの思考を押し潰そうとする。

父を失った痛みと怒り、恐怖が入り混じり、意識が揺れる。


「……くっ、負けない……!」


アカリは握りしめた操縦桿に全神経を集中させ、ルートの回線干渉に助けられながら抵抗する。

微細に残った機体制御を駆使し、粒子の触手をかわすたび、赤い波が意識を支える。

――直接触れ合っていないはずのミナモの波が、微かに届く。


「ここで……止める……!」


アカリの体内で赤い脈動が強く跳ねる。

ルートの支援回線が機体の制御を補助し、粒子の渦をわずかに押し返す。

その隙を突き、アカリは急旋回で黒い渦の中心から飛び出した。

黒い触手が後方へ弾かれ、四幹部の声の圧力も一瞬途切れる。


しかし、すぐに別の渦が伸び、四幹部の意識が再び押し寄せる。


「……これで終わりではない……!」

冷たい声が脳に刺さる。

粒子の触手が装甲を叩き、機体を押さえつけようとする。


――だが、赤い波が反応した。

微細に震える波動が触手に干渉し、押さえ込みを阻む。

「……まだ……負けない……!」

アカリの意志が、理性と共に機体に反映される。

微かに揺れる操縦桿が粒子の侵入を押し返すと

触手の束が弾かれ、黒い渦が裂け、宇宙空間に小さな隙間が生まれた。


――チャンスだ。

アカリは即座にスラスター全開、急旋回で渦から脱出。

ミナモの波動が意識の奥で跳ね、侵食の力を押し返す。

ルートの支援と波動の共鳴が合わさり、四幹部の圧力を分散。


「……負けない……絶対……!」

息を切らせながらも、アカリは操縦桿を握りしめ、粒子の渦を切り裂いた。

黒い触手が後方に弾かれ、赤い波が微かに残る。

視界にちらつく四幹部の残像はあるが、侵食は一時的に止まった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ