第6話「選ばれなかった男」
バベル・トーナメントも中盤戦に突入した。
対戦者たちは1人、また1人と脱落し、会場には静けさと緊張だけが残っていく。
だがその静寂を切り裂いたのは、ひとりの男の足音だった。
重く、鋭く、まるで大地そのものに怒りを刻むように。
「……やっとだな。ずっと待ってたぜ、“選ばれた男”」
現れたのは、漆黒のマントを羽織り、両眼に復讐の炎を宿した青年だった。
その名は――ジン=ブレイザー。
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「お前が……ジン、か?」
「そうさ。お前と同じ、“覇王の始祖”に選ばれたはずの男だよ」
だが、彼の瞳にあるのは、絶望でも諦めでもない。
それは明確な――憎悪だった。
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「俺はかつて、オリジンに選ばれた。だがな……」
彼はポケットから一枚の焼け焦げたカードを取り出した。
「このカードは、俺を拒んだんだよ!!」
「……拒んだ?」
「そうだ。“覚悟が足りない”と。そんな理由で、力を封印された。あの日からだ。俺の全ては――オリジンを殺すためだけにある」
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彼のデッキは、元はオリジン召喚のために設計されたもの。
だが今は、その構成すら変貌していた。
“オリジン封殺”に特化した、対《覇王の始祖》用デッキ。
つまり、オレ殺しのために調整されたデッキだ。
「俺は、“選ばれなかった者の怒り”で勝つ」
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【DUEL START】
ジン=ブレイザー
▶ LP:4000/拒絶・封殺型《反逆のデッキ》
カイ=アルト
▶ LP:4000/成長・逆転型《覇王封入デッキ》
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初手、ジンの展開は凶悪だった。
▶ 《反逆者の剣士・ノル》:召喚成功時、相手のレジェンドカードを封印
▶ 《遺恨の炎》:相手の“引いたカード”の効果を無効化
▶ 《殺意の構図》:相手のドロー枚数を常時監視、特殊ドロー時に1000ダメージ
「これが、“拒絶された者のデッキ”だ」
まさに……“オリジン封じ”の完成形。
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「どうする、カイ=アルト。お前が引くはずの一枚、その力はもう通じない」
「……だから、怖えんだよ。お前の執念が」
「だったら、降りろ。次のターン、お前がオリジンを引けば即死だ」
だが俺は、ゆっくりとデッキに手をかけた。
(選ばれたことが“特別”なんじゃねぇ。引き続けたことが、俺のすべてなんだ)
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ドロー。
カードが震える。
ジンの封印フィールドが空気ごと縛りつけてくる。
▶ 《覇王の始祖》――“ドローされたが、効果無効状態”。
使えねぇ。
でも、今の俺のデッキには――もう一枚の勝ち筋がある。
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「俺は、何度でも引き直す。“選ばれなかった過去”を乗り越えるために!」
カウンターカード発動!
▶ 《再選の布告》:手札の無効化カードを墓地に送り、1ターンに限り無効を打ち破る。
オリジンが吠える。
光が、闇を貫いた。
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「バカな……このデッキで……オリジンが発動するはずが……!」
「お前は、“選ばれなかった過去”に囚われすぎた。俺は今を選んだ。それだけだ」
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覇王の一撃がジンを貫き、彼のフィールドを消し飛ばす。
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【DUEL END】
勝者:カイ=アルト
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ジンはうずくまりながらも、最後に笑っていた。
「……皮肉だな。オリジンに拒まれて、それでもあんたを見て、少しだけ救われた気がする」
「だったら、次はその怒りを、“引き直せ”ばいい」
「……クソ、そんなセリフ、俺のだったはずなのに……!」
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「過去は変えられなくても、デッキは変えられる。何度でも引き直せる。それが、“この世界の救い”なんだよ」
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第7話「鉄血の王女」へ続く――