第4話「死神と、老人」
カードゲームで死ぬ。
それが冗談でも比喩でもなく、現実として横たわっているのがこの世界だ。
俺はその死線を、なんとか三戦超えてきた。
だが、ここから先は――「勝つために負けてきた」奴らが集う領域。
次なる対戦相手の名は、ダスト=エンドローズ。
通称、《死神》。
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「……よう、若造。アンタがオレの相手かい」
乾いた声とともに現れたのは、杖を突いた、くたびれた老人だった。
黒いコート、色あせたサングラス。
だがその手の指先は震えていない。むしろ、ピタリと止まっている。
まるで、長年の覚悟だけが残った機械のように。
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「爺さん……カードバトルなんかやって、腰に悪いんじゃねぇの?」
「ほほ……心配ありがとうよ。だがオレはな、“寿命を賭けてカードを引く”ような人生を何十年もやってきたんだ」
……こいつ、只者じゃねぇ。
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【DUEL START】
ダスト=エンドローズ
▶ LP:1000/自壊・復活・死神型デッキ
カイ=アルト
▶ LP:4000/成長・逆転型デッキ(オリジン封入)
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「先攻はワシじゃ。まずは《死兆の影》を召喚」
▶ 《死兆の影》:召喚時に自分のライフを半分にする代わりに、任意の“死神カード”を墓地から回収できる。
「次に《絶命の鐘楼》を発動。“5ターン以内に相手を倒せなければ、強制敗北”……ってね」
「おいおい、そんなもん自分にもリスクじゃねぇか」
「そうさ。だがワシは、“5ターンで終わる世界”しか生きたことがないんでな」
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ターンが進む。
老人は自分のライフを削りながら、《死神》と名のつくカードを展開していく。
▶ 《冥府の案内人》《死神の刻印》《黒き迎え火》……
そのデッキは、自分を削り、削り、最後に相手を冥府へ道連れにする構築だった。
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(こっちが攻撃しても、カウンターが返ってくる……)
(下手に動けば、一撃でこっちが沈む)
このデュエル、「引くタイミング」こそがすべてだった。
下手に早くオリジンを引いても、相手の罠で自壊される。
ここは、待つしかねぇ。
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「……なかなか引かねぇな、俺の一枚」
「焦るな、若造。ワシはな、“死ぬとわかってても引く”ってのを、幾度も繰り返してきた。それがカードの道だ」
「だったら、俺は“死なねぇで引く”わ」
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ターン5。
《絶命の鐘楼》のタイムリミットが迫る。
ダスト「残念だったな。あと1ターンで――」
カイ「いや、来たよ。オレの“最期じゃない一枚”が」
ドロー。
光が走る。
▶ 《覇王の始祖》
だが、召喚条件は“覚悟を決めたドロー”であること。
相手の「死のタイマー」が作動しているこの場面で、それを“使う”覚悟が問われていた。
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「いいぜ、老人。あんたが積み重ねた死の上に――俺は、生きて選び続ける!」
召喚・オリジン。
場のすべての死神カードを無効化し、攻撃力∞。
一撃で、老人のフィールドを貫いた。
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【DUEL END】
勝者:カイ=アルト
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倒れたダストは、笑っていた。
「……若いな、アンタ。“死を恐れずに引く”ことより、“生きて何度でも引き直す”方が、ずっと難しい」
「俺はそれをやるよ。あんたの分まで、な」
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彼のカードデッキは、最後に《再誕のカード》を残していた。
それは――敗者の魂を“次のデッキに託す”効果を持つ一枚だった。
「これで、ワシの人生も……何かの役に立つってもんさ」
そのカードは、静かに俺のデッキに混ざった。
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「オレは引く。何度でも。生きて、選び続けるために」
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第5話「双剣のレオナ」へ続く――