第12話「LAST DRAW -世紀末の一枚-」
楽園の扉が開かれた先に広がっていたのは――何もない“白”だった。
草木もなければ、空もない。
音も、風も、世界そのものも――ただの、空白。
「ここが……“楽園”?」
違う。
ここはまだ、“終わってすらいない世界”。
そして、その中心に立っていた男が、俺を待っていた。
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「やあ、ようこそ――最後の舞台へ」
男は、俺と同じ姿をしていた。
いや、少し違う。
目の色が濁っていて、どこか俺を“見下している”ような目をしている。
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「誰だ、お前……」
「俺の名前は――カイ=オルタ。
お前の、“もうひとつの可能性”さ」
「……は?」
「お前が“選ばなかった未来”。
逃げて、諦めて、立ち止まって、誰かのせいにしたお前が、ここにいる」
つまり――俺自身との戦い。
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「ふざけるな……こんなヤツ、俺じゃない」
「違う。お前は、俺になれた。けど、ならなかった。
この世界には、“選ばれなかった選択肢”が山ほど埋まっている。
その果てで積み上がった怨嗟が――この“世界の終わり”を生んだんだよ」
周囲の白が黒に染まっていく。
カードの残骸、敗者たちの影、失われた物語たちが――この世界を“死”で塗りつぶしていく。
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【FINAL DUEL】
カイ=オルタ(虚無の選択者)
▶ LP:???(選択不能)/反選択・喪失デッキ《無限後悔》
カイ=アルト
▶ LP:4000/選択・逆転型デッキ《覇王封入》
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オルタのデッキは凶悪だった。
▶ 《選ばれなかった道》:相手のドローを全て“過去の選択”に書き換える
▶ 《空白の記憶》:ドローを無効化し、手札を封印する
▶ 《世界の消失》:場に出たカードの効果を順に消去していく
このままじゃ、オリジンすら引けねぇ……!
「なぜあがく? 世界はもう、“選択を信じた結果”で滅びかけている」
「だったら、何も選ばず、何も信じず、ただ終わればいい」
(……違う。違う……!)
(選び続けた。間違えても、失っても、それでも――)
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「俺は! “選んで、生きてきた”!」
封印されたドローゾーンに手をかける。
黒に覆われたデッキが、わずかに光を返す。
「ここにきて……それでも引くのか?」
「そうだよ。“最後の一枚”を、俺は――信じる!」
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ドロー!
カードが空気を裂く。
虚無の世界に、ただひとつの“希望”が舞い降りた。
▶ 《覇王の始祖》――最終覚醒
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「このカードは、“想いを選び続けた者”だけが引けるラストカードだ」
オリジン、覚醒。
▶ 効果:場の“選ばれなかったすべての選択”を光に変換し、プレイヤーを“正史の継承者”として再構築する
白黒が混ざり、世界が再び“色”を取り戻す。
オルタのフィールドが崩壊し、彼自身が崩れかけた身体で言葉を吐いた。
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「……本当に……“選んでよかった”と思ってるのか?」
「当たり前だろ。間違っても、失っても、選ばなきゃ――なにも始まらねぇ」
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【DUEL END】
勝者:カイ=アルト
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虚無の世界は崩れ、空が青く広がっていく。
誰もが諦めた未来が――今、目の前にある。
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「この世界は“選んだ結果”でできている。
だったら俺は――これからも、何度でも選び続ける」
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『LAST DRAW -世紀末の一枚-』
―完―