第1話「絶望なんて、入れてねぇ」
俺の名前はカイ=アルト。
かつては、ただのモブだった。選ぶことも、信じることもせず、他人のドローに翻弄されて生きていた。
だけど、そんな俺に――“一枚のカード”がすべてを変えた。
そう、これは俺の、最後の一枚を引き続ける物語だ。
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カードが世界を支配するようになって、もう何十年経つかは誰もわからない。
文明は崩壊した。正義も秩序も紙切れ一枚に変わった。
そう、“カードゲームの勝者”が、すべてを支配する。
食料も、水も、土地も、命すらも。
引けなかった者は死ぬ。
選べなかった者は、消える。
俺は、どっちでもなかった。ただ逃げてただけだ。
そんな俺の前に、ある日――“それ”が現れた。
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「……なんだこれ」
ボロボロの廃墟の中、砂まみれのポストに刺さってた封筒。
差出人は不明。中には、1枚のカードと、簡素なメッセージ。
《バベル・トーナメントへの招待状》
《参加資格保有者:カイ=アルト》
《同封のカードが、その証明である》
封筒の中には、信じられないカードが入っていた。
▶《覇王の始祖》
伝説級のカードだ。実在すら疑われていた、チートの代名詞。
なんで俺にこんなもんが……と思った次の瞬間、背後から声がした。
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「おい、お前が参加者か? ちょうどいい、手始めに潰すぜ!」
現れたのは、モヒカンに釘バットを担いだ筋肉バカ。
札付きのデュエル喧嘩屋、スパイク・タロウ。
噂じゃ、初戦で15人潰したとかなんとか。
逃げられねぇ。これはもう、バトルスタートだ。
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【DUEL START】
スパイク
▶ LP:4000/フルアグロ型肉弾デッキ
カイ
▶ LP:4000/???デッキ(初心者)
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「先攻はオレ様だ! 《鉄拳スラッグ》召喚! そして《無慈悲な打撃》発動、攻撃力は3000だぁ!」
「……ちょっと待て、展開早くないか!?」
俺のフィールドは空。守備も何もなし。
普通なら、ここで即死エンドだ。
でも、俺の指が震えながらもデッキに伸びた。
(……引け、俺の……“何か”を)
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ドロー。
カードが、光った。
▶《覇王の始祖》
この瞬間、世界が変わった。
周囲の空気が震え、廃墟に神々しい風が吹いた。
「な、なんだそのカード……!?」
「知らねぇのか? 伝説だよ。オレに配られた、“この世界の最後の希望”さ」
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オリジンを場に出す。
▶ 効果:相手フィールドのカード全破壊+攻撃力無限上昇(条件:引いた瞬間に覚悟を決めてること)
「オレのデッキには……」
「絶望なんて、入れてねぇんだよ!!」
オリジンの一撃で、スパイクは爆散――いや、生きてるが、白目むいて倒れた。
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【DUEL END】
勝者:カイ
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数日後。
俺の手元には、バベル・トーナメントの本戦会場へのチケットが届いた。
世界最強のデュエリストたちが集う、決戦の舞台。
誰もが、“ラストドロー”に全てを賭ける死線の連続。
でも、もう俺は逃げねぇ。
だって――
「選ぶのが怖くたって、引かなきゃ終われねぇだろ?」
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第2話「バベル・トーナメント開幕」に続く!