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お前に掛けたれた賞金は安いからいつもなら見逃すのだが  作者: Soh.Su-K
第一章 一節 巨人討伐依頼編
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第7話 複数相手が常套だ

突然の待ち伏せ。

仕掛ける側も命がけ、受ける側も死活問題。

――狩るか、狩られるか。それが商売だ。

 往路の初日は、何事もなく平和に過ぎた。

 だが、二日目に入ると風景は一変した。森が深くなり、昼間だというのに薄暗い。木々の背が高く、葉は密に茂り、陽の光は地面に届かない。鳥の声も、風のざわめきも、なぜか昨日より遠く感じられる。

 この辺りからが、モンスター出没エリアの境界線だ。静かすぎるのは、あまり良い兆しじゃない。

 グローは荷馬車の最後尾で、弩を抱えながら後方警戒に就いている。さすがに今日は酔ってなどいないらしく、目はしっかり開いていた。

 俺は昨日と同じく、馬に跨りながらステルビアを咥えていた。

 甘味と渋み。

 それが舌の上で広がるうちに、神経も徐々に研ぎ澄まされていく。

 進路をじっと見つめる。枝の散らばり方、土の抉れ方、風の流れ。違和感の種はいくつもある。

 そのうちの一つが、俺の首筋を軽く撫でた。


「ん? ちょっと止まってくれ」


 俺は馬首を上げながら、先頭の御者にそう告げた。


「え? どうかされましたか?」


 御者が振り返る。その声には、かすかな不安が滲んでいた。


「……ああ、待ち伏せ(アンブッシュ)だな」


 俺は鞍から降り、道端の倒木に落ちていた乾いた枝を一本拾った。


「……何を?」

「まぁ、見てな」


 俺は左手で剣の鯉口を一度だけ切り、音を確かめるように再び納める。


 パチリ。


 静かな音が響いた次の瞬間、後方からガンガンガンッ、と金属を叩くような鈍い音が響いた。俺たちなりの合図だ。グローの準備も整ったということ。


「荷馬車からは出るな。絶対にだ」

「……わ、わかりました」


 緊張で声がわずかに震えていたが、御者は頷いた。

 俺は拾った枝を手に持ち、道の先へと軽く放る。枝は地面をかすめるように飛んで――空中の途中で、何かに当たったように不自然に弾かれた。


 その瞬間だった。


 左右の茂みから、数本の矢が一斉に飛び出してくる。狙いは――先頭の荷馬車。だが、そこに標的はない。矢は空を切り、硬い地面に突き立った。


 そして。


 両脇の木陰から、矮鬼(ゴブリン)が五体、次々と飛び出してきた。

 だが――奴らの目に映ったのは、止まっている荷馬車ではなく、剣の柄に手をかけた一人の男。

 つまり、俺だ。


「……残念だったな」


 俺は剣を抜き、地を蹴る。

 一歩踏み出した瞬間、最も近くにいた一体の首を、横薙ぎの一閃で断つ。飛び散る返り血を避けるように身体をひねりながら、肘を突き出す。

 肘が二体目の顔面に直撃した。骨の砕ける感触。矮鬼が吹き飛び、後ろの木に叩きつけられる。

 すかさず、剣を逆手に持ち替え、斜めに斬り込む。三体目の首筋に刃が触れた瞬間、感触が軽くなる。血が飛ぶ。

 残り二体。

 踏み込みながら右肘を突き出し、四体目の顎に食い込ませる。乾いた音とともに顎が砕け、獣じみた悲鳴が漏れる。

 最後の一体が後退しようとした瞬間、俺は左脚に全体重を乗せ、跳ぶように右脚を蹴り上げた。

 蹴り脚が矮鬼の喉に食い込んだまま、そのまま背後の木へと叩きつける。

 グシャ、と鈍い音が響いた。喉の骨が折れた。もがく間もなく、そいつは崩れ落ちた。


「……終了っと」


 俺は剣に付いた血を布で拭き取り、静かに鞘に収める。パチリという音と共に、背後から再びガンガンという音が聞こえた。

 グローの側も終わったらしい。


「後ろも完了だ。……さて、出発すっか」


 馬に戻ろうとした時、先頭の御者が呆然とした顔で俺を見つめていた。


「強い……」


 その小さな呟きに続いて、荷馬車の後ろからピュートが姿を見せる。


「複数相手に、一人で……突っ込むなんて……見たことがありません……」


 俺は思わず笑ってしまった。


「敵が複数の時は、先手必勝が基本だ。一撃で一体を派手に倒せば、他の奴らは怯む。そこを一気に潰す。手早く片付けるには、もってこいのやり方だ」

「でも、ガル殿は剣士かと思っていましたが……徒手格闘も?」

「格闘家なんて呼ばれるほどじゃない。状況次第だよ。密集してる相手には、剣を振るうより拳のほうが取り回しがいいこともある」

「見事でした。あの動き、初めて見ました。まるで、別の生き物みたいでした」


 ……変わった例えだな。


「まぁ、俺の戦い方はマイナーな流派を元にした我流だ。師匠はいるが、今の型は自分で作ったものだよ」

「……すごい……」


 尊敬の眼差しを向けてくるピュートの気配を、背中に感じた。


「ハハハ、そう褒められるほどのもんじゃねぇよ。けど、複数相手に対応できねぇ奴は、賞金稼ぎ(バウンティハンター)なんてやってられんさ。稼ぐには、少人数で支払いのいい依頼をこなすしかないからな」


 軽口を叩きながら馬に跨ると、ピュートがほっとしたように息をついた。


「……安心しました。正直、少し……不安でしたから」


 その正直さに苦笑する。そうか、そんなに頼りなく見えてたのか。


「だから言ったろ? 後悔はさせないって」


 そう返した瞬間、ふと空気の流れが変わった気がした。

いよいよ戦闘開始です。

ガルの嗅覚的な直感と、グローとの連携が少しずつ見えてきたかと思います。

今後もこういう「地味だけど効いてくる動き」を描いていきたいです。

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