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お前に掛けたれた賞金は安いからいつもなら見逃すのだが  作者: Soh.Su-K
第一章 一節 巨人討伐依頼編
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第6話 この依頼は当たりのようだ

順調な滑り出しに、少しの安堵。

甘く香るステルビアの葉の裏で、彼の勘は静かに研ぎ澄まされていく。

 馬の背の揺れに身を任せながら、俺はステルビアの葉を口に含んでいた。

 ほのかに甘くて、少しだけ渋みのある味。煙草の代わりだ。移動中に煙草なんか吸えば、匂いに釣られてモンスターが寄ってくる可能性もある。

 特にこの辺りは比較的安全とはいえ、絶対という保証はない。旅路において油断は禁物だ。

 ステルビアの葉はピュートから買ったものだ。甘味料として料理に使われる草で、口寂しさを紛らわせるにはちょうどいい。商会の在庫から小袋ひとつ分を分けてもらったが、しっかり市場価格の半額は取られた。

 ……まったく、律儀な商売人だ。


「ガルさーん、そろそろお昼にしましょう」


 先頭の荷馬車の御者がこちらに声をかけてきた。

 言われてみれば、道に落ちる影が真下を指している。いつの間にか、ずいぶんと陽が高くなっていた。


「そうだな。休憩しよう」


 しばらく進んだ先に、ちょうど良い広場が現れる。道から少し外れた開けた場所で、馬車が三台とも無理なく入れる広さだ。地面は平らに整備されていて、中央には石を積んで作った焚き火跡が三つ。荷馬車を引いていた馬たちも、引き綱をほどかれて草をはみはみと食べ始めている。


「ここ、商会が許可を取って整備した休憩所なんですよ」


 御者の圃矮人(ハーフリング)がにこにこと説明してくれる。


「輸送隊のために、道沿いのいくつかの場所をこうやって拓いてるんです。旅の商人や冒険者の方にも、たまに使ってもらってます」

「……なるほどな。どうりで使いやすいわけだ」


 実際、こういう場所は街道沿いにいくつも点在している。俺たちもたびたび使わせてもらっているが、まさかそれが商会の手によるものだったとは思っていなかった。


「すぐ近くに小川もありますよ。あっちの細い道を進んで少し行った先です。水場があるのも、この場所の利点です」

「ありがたい話だな。商人の努力ってやつか」


 俺は軽く頭を下げる。

 焚き火と水場、この二つが揃っているというのは旅人にとって何よりありがたい。

 道中で汲める水でも、基本的にはそのまま飲まない。一度沸かして茶にする。それが常識であり、生き残るための知恵だ。


「いえいえ。私は整備に関わっていませんから。先代たちの功績です」


 ピュートがはにかんだように言いながら、小ぶりの鍋を取り出す。


「さて、お昼にしましょう」

「もう昼か……」


 グローがのっそりと最後尾の荷馬車から降りてきた。欠伸をしながら、ぽりぽりと腹を掻いている。どうやらずっと荷台で寝ていたらしい。

 焚き火の前に簡易の鍋掛けが設置され、そこへピュートが水を注ぐ。周囲の圃矮人たちは慣れた手付きで焚き火に火を入れ、湯を沸かし始めた。

 そして、もう一人が鞄から取り出したのは、長く太い、燻製の香り漂う腸詰だった。


「うおぉ、腸詰じゃと!?なんと豪華な!」


 さっきまで眠たげだったグローの目が一気に見開かれる。

 干し肉と固いパンばかりの旅食に慣れきった冒険者にとって、腸詰は贅沢品だ。香辛料が多く使われるため、保存も効くが値も張る。


「ご安心ください。まずは茹でてから焼きます。味も香りも、ぐっと良くなりますよ」


 鍋が湯気を上げる間に、別の火ではお茶が準備されていた。

 黒い液体が注がれたカップが手渡される。


「これは……何だ? 見たことない色の茶だな」

「南の土地で採れた豆を炒って、挽いて、お湯を注いだものです。ミルクと砂糖を入れると、ぐっと飲みやすくなりますよ」

「……ふぅん?」


 俺は恐る恐る、その黒い飲み物にミルクと砂糖を加え、一口飲んだ。


「……っ!」


 舌に広がる苦みと、ミルクのまろやかさ、砂糖の甘さ。そして鼻に抜ける、芳ばしい香り。


「!!不思議な味だ……でも、悪くない」

「うむ……ワシはミルク抜きが良いかの。後味がすっきりする」


 圃矮人たちはにこにこと頷いていた。ピュートが小さな帳面を取り出し、俺たちの反応をしっかり書き留めている。


「私たちは産地の名前を取って、“コッフェ”と呼んでいます。商会で市場展開を検討しているのですが、癖があるので受け入れられるか心配で……」

「俺は好きだな。気付けにもなるし、朝にはちょうどいい」

「うむ。これは旅には向いておる。特に、夜明けの見張りの時などに効きそうじゃ」


 やがて、鍋の中の腸詰が良い頃合いになった。表面がぷっくりと膨らみ、弾ける直前のような見た目。別の圃矮人が焼き台の上で軽く焦げ目をつけていく。

 そして、温かいパンに挟まれた腸詰が俺たちの手に渡った。

 肉汁と香辛料の香りが鼻腔をくすぐり、思わず顔がほころぶ。


「……うまっ」

「これは……贅沢じゃのぉ……!」


 グローと同時に、同じ言葉が漏れた。

 たった一食の昼飯だったが、温かく、満たされ、気持ちまで緩むような――そんな時間だった。

平穏すぎる出発。フラグ……というほどあからさまではありませんが、嵐の前の静けさ感を出したかった回です。

ステルビア、旅先のお供にいかがでしょう(なお実在しません)

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