表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お前に掛けたれた賞金は安いからいつもなら見逃すのだが  作者: Soh.Su-K
第一章 四節 盗賊団討伐依頼編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/67

第66話 魂の在るところ・Ⅱ

 目が覚めると、案の定エルウィンが隣で寝ていた。

 当然、どちらも生まれたままの姿だ。


「……」


 寝息は静かで、顔はやっぱり綺麗だ。昨夜は『魂世界アーラヤ』に引きずられず、久々に熟睡できた。理由は分からないが、エルウィンのお陰だということだけは分かる。


 ベッド脇に腰かけ、紙巻煙草に火を点ける。ひと口吸って、ゆっくり吐く。魔術の理屈なんて、魔法もろくに分からない俺には遠い。それでも、最低限のコントロールは覚えないと自分の身が危うい――そこまでは理解した。頭が痛い。


「ガルって、よく溜息吐くわよね」


 エルウィンが目だけ開けていた。


「起きたのか」


「うん。煙草の匂いでね」


「悪い。嫌いだったか?」


「ううん。ガルのは平気」


 手が伸びて、頭をくしゃっと撫でられる。


「何だよ」


「溜息ばっかり吐いてると、不幸になるわよ」


「もう一生分は味わったからいいよ」


「じゃあ今は返済ペイバック期間?」


「知るか」


「今、幸せじゃないの?」


 答えに詰まる。幸せって何か、考えたことがない。


「一時期に比べれば、幸せなんじゃないかな」


「なんで疑問形なの」


「“幸せ”が何なのか、いまいち分からん。けど、賞金稼ぎ(バウンティハンター)として不自由なく暮らせてる。恵まれてるとは思う」


「つまり、言語化はまだってことね」


「結局いつか壊れる。今が良くても明日は駄目かもしれん。そう思うと焦る」


「ガルは生き急ぎ過ぎ」


「グローにも言われる。けど他の生き方を知らん」


「不器用だね、ほんと」


 エルウィンが上体を起こし、シーツを肩まで引き上げた。


「で。昨夜、降りなかった。何故だ?」


 純粋に不思議だった。あれだけ呼ばれていたのに、落ちないで済んだ。


「簡単。ガルが闇に寄り過ぎたから、私が手っ取り早く引き剥がした」


「手っ取り早く?」


「儀式で中和するには印と準備が要る。時間も道具も無かった。最短で確実なのは、光属性の私と同調すること=寝ること。混ぜて薄めて、闇から距離を取らせる。昨夜はそれだけ」


 言い方はさらっとしてるが、言ってることは容赦ない。


「理屈はよく分からん」


「身体は分かってるでしょ。眠れたから」


「……まぁ」


 エルウィンがにっこり笑う。


「ただし、これは荒療治。毎回これで誤魔化す気はないわ。ガルは魔術師ストライゴンの訓練を受けてない分、魔素オドへの耐性が低い。耐性を上げる訓練は必要なの」


「使う気がなくても、コントロールは必須か」


 溜息が漏れる。


「とう!」


「あだっ!」


 唐突に手刀が頭に落ちた。


「何すんだ!」


「また溜息」


「癖だ、仕方ない」


「仕方なくない。今の一回は“よし、訓練する”に置き換える」


「……分かったよ。訓練する。呼ばれたら半歩引く、近づかない」


 彼女は満足そうに頷いた。


()()()、どうなった?」


「あの後?」


「俺が街に戻った後の依頼の話だ」


「ああ。魔術師の方は――言わなくても分かるでしょ。問題は匿ってた村。把握してたのは一部だけ。ただ、その“一部”が全員、村の重役だったわ」


「処遇は?」


「軍とギルドで協議中。二十人分の被害、死者なし。でも軽くはできない」


「代表一名の死罪、他は罰金刑あたりで落とすかもな」


「分からない。村の運営にも直撃するから、線引きが難しい」


 俺は二本目に火を点ける。エルウィンがそれを取り上げ、ひと口吸って返してきた。


圃矮人ハーフリングの子は?」


「元気。外傷なし。目はまだ揺れるけど、すぐ戻ると思う」


「そうか。良かった」


 胸の奥のざらつきが、少し取れた気がする。


「今回も役立たずだったな……」


「とう!」


「あだだ!」


 二発目。同じ場所だ。


「何なんだよ!」


「“だったな”で自分を締めるの禁止。今回は反省、次は役に立つ。はい言って」


「……次は、役に立つ」


「よろしい」


 エルウィンが俺の首に腕を絡めて寄り、唇を軽く当てた。


「ちょっと待て。魔素は中和されたから、もう必要ないんじゃないか」


「何が?」


「……いや、その、だな」


「ガルには女心が分からないのかしら?」


「はぁ……」


「また溜息。拗ねるわよ?」


「言ってろ」


 軽く笑って、彼女はシーツを引き上げる。

 俺達はもう一度、身体を重ねることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハイファンタジー シリアス 内政 陰謀 男主人公 策謀 裏切り 教会
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ