表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お前に掛けたれた賞金は安いからいつもなら見逃すのだが  作者: Soh.Su-K
第一章 四節 盗賊団討伐依頼編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/67

第65話 魂の在るところ・Ⅰ

 自宅のベッドに横になっていた。

 子ども達の件は――多分グローが片をつけた。エルウィンは俺を家へ送り届けると、その足で村へ。匿っていた連中の拘束だ。身柄は軍へ、以後は軍の裁量。はぁ……。


 情けない。

 矮鬼ゴブリンの幼体なら迷いなく斬ってきたのに、今回は駄目だった。忘れていた昔の自分が、どうしてあの子らと重なるのか。理由が出てこない自分が、いちばん情けない。


 起き上がって紙巻煙草に火を点ける。肺に入れて、天井へ細く吐いたところでノック。咥えたままドアを開けると、セリファ。


「大丈夫?」


「まぁ……」


「これ。ご飯はちゃんと食べなさい。じゃあね」


 白布のかかったバスケットを押しつけるように渡して、踵を返す。布の下から温いスープの匂い。胃がきしむ。籠をテーブルに置き、煙草を灰皿で揉み消して、もう一度ベッドに沈んだ。


 いつの間にか眠っていた。



 『魂世界アーラヤ』に降りていた。

 音の抜けた空間に、俺ひとり。前に来た時より肌ざわりが悪い。ざらつきが喉に貼り付き、胸の裏で小さな警鐘が鳴る。


「またか……。ウラグはいるか」


 歩き出す。戻り方は知らない。勝手に降りるのを止める術もない。歩くしかない。うんざりしながら進むうち、遠くでざわめき。そこだけ淡く光が滲む。近付くほどに嫌な圧が強くなる。引き返すべきだ――と思った瞬間には、もう遅かった。


「〇◆$@=▼#!」


 意味を結ばない叫びが叩きつけられ、赤黒い“千の指”がどっと俺にまとわりついた。

 形の定まらないそれが、腕、首、胸、眼窩の裏までずぶずぶと入り込む。脳の内側を粗い櫛で梳かれるみたいな、吐き気のする不快感が一気に膨らんだ。


「クソッ!」


 うずくまる。怒り、悲しみ、恐怖、憎しみ――負の感情が直接流し込まれてくる。嘔吐を繰り返すのに、何も出ない。肺が熱く、息が詰まる。正気が削れる音がする。どうにかしろ、と思うのに、何もできない。


 がくん、と身体が揺さぶられた。


「ガル!」


 目を開ける。エルウィンだ。

 視界が揺れ、匂いが押し寄せる。ここは……自宅。引き戻してもらったと理解した瞬間、鼻を刺す臭気に気づいた。


「俺……」


 ベッドが嘔吐物で汚れている。俺も、エルウィンも。


「ガル!自分が何をやってるか分かってるの!?」


 ぼやけていた視界が少しずつ澄む。エルウィンは泣いていた。けれど、頭はまだ追いつかない。


「むやみに『魂世界』へ降りないで!あのままだったら取り殺されてたわ!」


「どういうことだ……?降り方なんて、俺は……」


「はぁ……」


 大きく息を吐いてから、声を落とす。


「いい? まず覚えるのは『魂』のコントロール。今日みたいに、恨みを抱えた魔術師が死んでいる時は、絶対に降りない。呼ばれて、引き込まれる」


「……今の、あの子達か」


「……そう。貴方は暗黒種族じゃない。闇の『魂世界』には降りるべきじゃないの」


「降りたくて降りてるわけじゃない……」


「分かってる。だから余計に、()()()()()を身につける必要があるの。分かる?」


「……ああ」


「とにかく、横になって。今日は休む」


「……また降りるかもしれない」


「私が付いてる。大丈夫」


 眠るのが怖い――いつ以来だ。大の大人が、ブルブル震えている。どうしようもなく情けない。


「……何故か、殺せなかった。今までは迷いなんてなかったのに」


「仕方ないわ。貴方、前より暗黒種族に近い存在になってる。その()のせいでね。同族だと、同情が湧く」


「このままじゃ廃業だ……」


 自嘲が漏れる。ギルドの仕事の大半は暗黒種族絡み。斬れないなら、終わりだ。


「大丈夫。私がいる。任せて」


 エルウィンが身を屈め、そっと口づけた。そのまま押し戻すように俺をベッドへ寝かせる。


「エルウィン……?」


 こんな時に――と両肩を掴んで退けようとすると、彼女は人差し指を唇に当てた。


「こんな時に無駄口を叩くのは()()よ」


 もう一度、静かに唇が重なる。温度が喉を通り、心臓の拍が少し落ち着いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハイファンタジー シリアス 内政 陰謀 男主人公 策謀 裏切り 教会
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ