表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お前に掛けたれた賞金は安いからいつもなら見逃すのだが  作者: Soh.Su-K
第一章 四節 盗賊団討伐依頼編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/67

第63話 真相を明らかにしたい

「最後の襲撃から、もう二日だな。()()は出尽くしたか」


「恐らくな」


 結局、襲ってきたのは累計二十人ほど。この辺りで行方不明になっていた連中と一致する顔ぶれだ。全員の洗脳を解き、街へ送り返した。今夜は村へ入る。無関係な者に刃を向けない、それだけは外せない。


魔術師ストライゴンはエルウィンが抑える。俺とお前は暴れるだけ」


「うむ……しかし、上手くいくかの?」


「上手くやるしかないだろ」


 村道の途中から森へ折れる。操られていた者がどこから出て来たかは、すでにエルウィンが洗っていた。最初の納屋はただの倉庫。本命は村の近く、誰も寄りつかない林の奥にある一軒家だった。五人は住めそうな大きさで、造りは簡素。材の匂いはまだ新しい。魔術残滓が薄く漂っている。


「人の気配がないのぉ……」


 外周を回りながらグローが低く呟く。


「操られてた連中は全員解放できた。補充してなければ、ここは空だ」


「なら踏み込むかの」


「証拠が出ればいいがな」


 近づいてノブに手を掛ける。鍵は掛かっていない。軋みを殺して押し開けると、薄暗い室内には生活の温度がない。テーブルも椅子もないリビングの中央に、黒い塊がひとつ。


「ん?」


 目を凝らす間もなく、グローが俺を押しのけて中へ出た。瞬間、黒い塊の縁がキラリと光って跳ねる。


「危ない!」


 飛びかかって来たそれを、咄嗟にグローの脇を蹴ってかわし、胸元で抱え込む。小さい。手に刃。


「何なんだ!」


 立ち上がったグローが息を荒くする。腕の中の黒い塊の正体は、ナイフを握った圃矮人(ハーフリング)の子どもだった。瞳に焦点がない。声も発しない。


「最後の手駒だな」


 この子が跳ねた瞬間、家の奥から何者かが逃げる気配。エルウィンはそれを追った。


「エルウィンを呼ぶべきか。洗脳を解かにゃならん」


「無理だ。犯人を追った」


「ならどうする?このままでは暴れるぞい」


「まず落とす」


 首筋に手刀を入れる。体から力が抜けたところで床に寝かせ、胸に手を置く。エルウィンから教わった“解き方”を頭の中でなぞる。例の()を思い描き、そこへ魔素オドを満たす。短く息を吐き、その印を掌から押し出す。


 ぱち、と静電気が走ったような感触。小さな体が一度だけ大きく震え、黒い煙のようなものが胸の上で揺らいで霧散した。呼吸が落ち着く。


「出来たのか?」


「多分な」


 しばらくすれば目が覚めるはずだ。袖口には小さな鈴飾りが縫い付けられている。子どもを使えば、大人の警戒は緩む。質の悪い罠だ。


「こんな子供まで操っていたとはな」


「相手が子供なら大人は油断する。ブービートラップと同じだ」


「つまり、この子が最初の被害者か」


「そう考えるのが自然だろう」


 ここに置けば、また誰かが使う。休憩所へ連れて戻し、すぐに合流した方がいい。


「この子は休憩所だ。俺が連れて行く。お前はエルウィンを追え」


「足はお主の方が速いからの、すぐ来い」


「任せろ」


 背中は軽いのに、胸の奥は重い。寝袋に寝かせ、毛布をかけ、「ここで大人しく寝てろよ」と声を落とす。水で唇を湿らせ、もう一度走る。家を通過し、エルウィンが残した目印――折れた枝、草の結び、樹皮の浅い刻み――を拾っていく。


 一キロも走らないうちに、空気の層が変わった。茂みの陰で二つの気配が息を潜めている。近づいて同じように身を伏せると、エルウィンが顎で示した先、巨岩の陰に洞窟が口を開けていた。


「中ね。深くはない。気配からして四人」


 湿った冷気が頬に貼りつく。水滴の音が遅れて聞こえた。


「四人か……」


「全員が魔術師と見ていいわ。どうする?」


 グローが斧の柄を握り直す。


「突っ込むしかないであろう」


「馬鹿を言うな。相手の戦力も、護衛も、抜け道の有無も分からん。数で勝る相手の巣に突っ込むのは悪手だ」


「しかし、待っておっても埒が明かんぞ?」


 確かに、ここで待てば時間は食う。別の出入口から抜けられる可能性もある。


「俺が偵察する」


「私が行くわ」


 エルウィンが一歩前に出る。目が闇へ馴染む速さは、いつ見ても早い。


「危険だぞ」


「私は野伏レンジャー。偵察くらいできる。それに、魔術に対する知識もある。私の方が罠や印に気づける」


「うむ……」


「エルウィンの言う通りだ。ワシとガルには魔術の知識がない」


「分かった。俺とグローは入り口を押さえる。戻って来たら一気にいく」


 エルウィンは頷き、音もなく岩影へ溶けた。洞の奥から、湿った風がゆっくりと吐き出される。刀の柄に指を添え、投げ小剣(ナイフ)を二本、指に掛ける。グローが鼻で息を鳴らした。


「合図は?」


「エルウィンの笛だ。聞こえたら、まず術者の口を封じる」


「口は殴れば塞がる」


「そういう意味じゃない」


 くだらないやり取りで、肩の力が少し抜けた。外堀は埋めた。あとは本丸を叩くだけ。準備は整っている。合図を待つ。湿った冷気が、頬から首筋へゆっくりと降りていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハイファンタジー シリアス 内政 陰謀 男主人公 策謀 裏切り 教会
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ