第60話 頭は使いようだ
ここから新たな展開、第60話です。
盗賊調査の依頼も核心に近付き、ガルたちの読みと行動力が試される場面になっていきます。
今回は「頭を使う」ことの大切さと、仲間との掛け合いの軽妙さを中心に描いています。
一つ目の村で聞き込みをして一泊し、翌朝二つ目の村へ向かった。
どちらも、のどかで貧しい集落。
聞き込みの内容は単純だ。
「近くで盗賊が出ている。異変があればすぐギルドへ連絡を」──それだけ。
村人たちは皆、怯えたように頷いた。
麦畑は痩せ、家屋も粗末。
生活が厳しければ盗賊に身を落とす者も出るだろうが──俺には同情できなかった。
「とはいえ、割に合わんよな」
休憩所へ戻る道すがら、思わず口にしていた。
「何がじゃ?」
「盗賊のことさ。食うために武器を取るのは理解できるが、同情はできない。選択肢は他にある」
「その通りじゃ。軍に志願するなり日雇いに出るなり、道はある」
「盗賊は早く稼げるが早く死ぬ道だ」
「それでも踏み外す奴はいる。世の中には救えぬ者も少なくない」
世知辛い話を交わしながら休憩所に戻ると、既にエルウィンが戻っていた。
「もう、遅いじゃない。どこ行ってたの?」
「近隣の村で聞き込みだ。……で、頼んでいたものは?」
「ほら、ちゃんと受け取ってきたわ」
差し出された羊皮紙の束。
「フィロー商会からは周辺集落での売買履歴。ギルドのベルベットからは最近一ヶ月の依頼一覧。──揃ってるわ」
「ご苦労。……これで盗賊が潜む集落を炙り出せる」
グローが怪訝そうに眉をひそめた。
「そんなもんで分かるのか?」
「被害の報告と、売買の動き。時間を突き合わせればボロが出る」
羊皮紙を広げる。
被害が出たのは約二週間前。
その直前──この土地では採れない作物が持ち込まれ、さらに中古の剣と防具が商会に売られていた。
「……ビンゴだ」
指差した箇所に、二人が覗き込む。
「二週間前……ちょうど最初の被害が出た頃じゃな」
「旅人が売った、だって。しかもこの辺りじゃ採れない作物?」
「それだけじゃない。中古の武具もセットで売却されている。──盗賊が換金したに決まってる」
グローが鼻を鳴らす。
「分かりやす過ぎるの。むしろ、なぜ気づかれんかった?」
「商会は自分の輸送隊じゃなきゃ深く調べないし、ギルドも被害者が旅人じゃ軽く扱う。分業の穴ってやつだ」
「……真面目なガルじゃなきゃ、突き合わせて調べようなんて思わないわね」
エルウィンがニヤリと笑う。
「正義の味方、ってやつ?」
「茶化すな。被害が広がれば報酬が減るだろ」
「はいはい、“正義の味方”さん?」
「お前なぁ……」
グローまで肩を震わせて笑っている。
全く、コイツらは……。
「まぁいい。俺とグローは既に村に顔を出した。連中は近いうちに仕掛けてくるはずだ」
「そこを迎え撃つわけね!」
エルウィンが目を輝かせるが、俺は首を横に振った。
「いや、お前は隠れてろ」
「え、なんで?」
「奴らは俺とグローの二人組だと思ってる。お前が出てきたら警戒して襲ってこないかもしれん」
「じゃあ、私は何を──」
首を傾げるエルウィンに、俺は笑って天を指差した。
「木の上で息を潜めてろ。野伏殿の得意分野だろ?」
「……うわ、使い方が雑!」
「人使いが荒いのぉ」
グローが愉快そうに笑った。
お読みいただき、ありがとうございました。
今回の第60話では、ガルが正面から動くのではなく、情報を組み合わせて“答えを導き出す”という形を取っています。
単純な力押しではなく、頭を使うことも冒険者の仕事。
次回からは、いよいよ実際の対峙に向けて物語が動き始めます。
引き続きお楽しみください。




