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お前に掛けたれた賞金は安いからいつもなら見逃すのだが  作者: Soh.Su-K
第一章 四節 盗賊団討伐依頼編

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第59話 人使いが荒いわね

街へと駆け戻ったエルウィン。

フィロー商会とギルド事務長──二人のキーパーソンへ、ガルからの手紙を届ける。

誠実な商人ピュートと、妖艶な事務長ベルベット。

そして久々に顔を合わせるセリファ。

慌ただしい用事の中で、エルウィンは束の間の安らぎを得る。

 私は思わず本気で走ってしまった。

 気づけば、半日もかからず街の南門へと辿り着いていた。


 石壁の向こうに広がる人の気配。馬の嘶き、屋台の喧噪、鼻をくすぐる焼きパンの匂い──。

 森の不気味な静寂から一転、胸の奥に安堵が広がる。


「ふぅ……やっと着いた」


 息を整えつつ、ガルから受け取った手紙を取り出す。

 宛名には、フィロー商会のピュートと、ギルド事務長のベルベットの名。


 王都研究所で翻訳の手伝いをしたおかげで、現代耳長人(エルフ)語の読み書きは問題ない。

 日常生活で困ることはもうないけれど──こういう使い走りは、やっぱり緊張する。


「まずはピュートさんね」



 フィロー商会の事務所に入ると、圃矮人(ハーフリング)たちが慌ただしく行き交っていた。

 受付で名を告げると、間もなくピュート本人が現れる。


「これは!エルウィンさん!」


「お久しぶり、ピュートさん」


「噂でこちらに移り住んだとは聞いていましたが……まさか直接お会いできるとは!」


「私もご挨拶に伺うべきだったのに、すみません」


「いえいえ!むしろ私が伺うべきでした。申し訳ない」


 相変わらずの丁寧さに、思わず頬が緩む。

 けれど今は、急ぎの用件がある。


「ガルからの手紙を預かってきたの。目を通してもらえる?」


「手紙ですか……?」


 首を傾げながら受け取ったピュートは、読み進めるうちに表情を引き締めた。


「……なるほど、承知しました。少し調べて、明日の午前中までに書類をまとめます。再度ご来社いただけますか?」


「ええ。……でも、何を調べるの?」


「あれ? 内容をご存じない?」


「私はただの配達人(メッセンジャー)。封は開けてないわ」


「でしたら、明日の説明まで楽しみにお待ちください。──まずはこちらを」


 手紙を返してくるピュートに礼を言い、次の宛先へ向かう。



 冒険者ギルド。

 受注カウンターで事務長ベルベットを呼び出すと、受付嬢は怪訝そうに眉をひそめた。


「事務長ですか……?ご用件は?」


「ガルからの手紙をお渡ししたいの」


 ガルの名を出した瞬間、空気が少し変わった。

 しぶしぶ受け取った受付嬢が奥へと消える。


 やがて、艶やかな香りをまとった女性が現れた。

 豊満な体躯に落ち着いた所作──まるで一歩ごとに空気を支配していくようだ。


「貴女がエルウィンさんですね。ガルさんのお使いと伺いました」


 その視線に射抜かれ、思わず背筋が伸びる。

 同性の私ですら、息を詰めそうになる色気。……ただ者じゃない。


「はい。火急の手紙です」


「拝見しました。こちらも調べ、明朝までに書類を仕上げます」


「ありがとうございます。では、明日伺います」


 立ち去ろうとした瞬間、ベルベットが呼び止めた。


「あぁ、それと──」


「何でしょう?」


「経費は報酬から天引きと書かれていましたが、今回は不要です。依頼に関わる重要資料ですから」


 にこりと微笑む顔に、底知れぬ圧を感じる。


「……お伝えします。ありがとうございます」


「良しなに」


 魔女め……。

 私は思わず足早にギルドを後にした。



「とりあえず、ご飯!」


 半日走り通しで腹は空っぽ。

 いつもの大将の店に入ると──


「エルウィン!?帰ってきたの!?」


 カウンター越しにセリファが目を丸くした。

 うん、やっぱり可愛い。


「ガルに頼まれて戻ってきただけ。また明日には出発よ」


「忙しいのね……とりあえず座って。いつもの葡萄酒でいい?」


「お願い」


 端の席に腰を下ろし、埃まみれのブーツを見て後悔する。先にお風呂に入るべきだった。


「はい、どうぞ」


「ありがと」


「今回も厄介事?」


「かもね。商会とギルドに調べ物を頼んだみたい」


「ふぅん……なんでガルたちの依頼って、いつも一筋縄じゃいかないのかしら」


厄介者(トラブルメーカー)ってことじゃない?」


「褒めてる?」


「もちろん嫌味よ」


 二人で顔を見合わせて、クスクスと笑う。

 けれど──ガルの依頼は結局いつも根本を解決している。

 だからこそ、ギルドでの評価は高い。


 私は葡萄酒を一口飲み、心の中でそっと呟いた。

 ──やれやれ、ほんと人使いが荒いわね。

お読みいただきありがとうございました。

今回はエルウィン視点で、街に戻ってからの動きを描きました。

彼女が出会った人々は、それぞれが次の展開を左右する存在となります。

明日には調査結果が揃い、再び仲間たちの元へ戻ることに。

次回、情報を携えたエルウィンが合流することで、物語はいよいよ核心に近づきます。

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