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お前に掛けたれた賞金は安いからいつもなら見逃すのだが  作者: Soh.Su-K
第一章 一節 巨人討伐依頼編
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第5話 こっちはこっちのやり方がある

夜明け前、街を抜けて任務へ向かう。

抜けない酔いと、張り詰める空気。

それでも彼らは、“自分のやり方”で動く。

 出発当日。まだ夜が明けきらぬ頃、俺とグローは静まり返った街を歩いていた。

 通りの石畳は朝露に濡れ、足音がいつもよりやけに響く。遠くの空がほんのり白み始めているが、街灯の明かりがなければ足元もおぼつかない。店はどこも閉じられ、通りには人影すらない。寝静まった街というのは、妙に広く感じる。


「眠いのぉ……」


 グローが欠伸をしながら、腕を振って肩を回す。口が裂けそうなほどの欠伸だ。


「……グロー、酒臭いぞ」


 思わず顔を背ける。

 昨日の晩、別れたあと少し嫌な予感がしていたが、まさか本当に飲みに行っていたとはな。


「なぁに、ワシにとって酒は燃料だ。飲まんと逆に身体が動かん」

「お前、今回は護衛だぞ。商人相手の客仕事だっての、分かってんのか?」

「ワシはワシのやり方でやるだけじゃ。問題あるか?」


 ……こいつに何を言っても無駄だということは、長年一緒にいる俺が一番知っている。

 それにしても、ピュートの顔が今から目に浮かぶ。気絶するんじゃなかろうか。

 そんなことを思いながら歩いていると、フィロー商会の事務所が見えてきた。

 建物の中からは煌々と明かりが漏れており、扉を開け放ったまま出入りする圃矮人(ハーフリング)たちが、せわしなく荷の確認や積み込みに動いている。

 小柄な彼らが大きな箱を器用に担いで運ぶ姿は、まるで蟻の行列のようだ。見た目の印象からは想像できないほどの力と連携。圃矮人が“おっとりした種族”だなんて話は、商売の現場には通用しないというのを、俺は昨日の応対で痛感したばかりだ。


「これはこれはお二方、お早いご到着で! おはようございます!」


 ちょうど箱を抱えて出てきたピュートが、俺たちに気づいて駆け寄ってきた。朝から張り切っているようだ。


「朝から精が出るな。感心するぜ」

「ただいま荷物と書類の最終確認を行っております。あと少しで準備完了ですので、もうしばらくお待ちください」


 ピュートは笑顔のまま一礼し、再び小走りで事務所に戻っていった。

 俺がため息をついている間も、グローは相変わらず欠伸を連発している。目もどこか虚ろで、まだ半分寝てるような様子だ。


「……」


 事務所の方を見ると、ピュートが顔だけ覗かせて手招きしている。


「ちょっと便所借りてくる」


 グローにそう告げ、俺は事務所へと足を踏み入れた。

 中では10人ほどの圃矮人たちが、帳簿を開いて荷札と照らし合わせたり、積荷のひとつひとつを指差し確認したりと、忙しく立ち回っている。昨日の段階でかなり準備は進んでいたようで、空気はどことなく落ち着いていた。

 そんな中で、ピュートがひときわ深刻そうな顔でこちらに近づいてきた。


「ガル殿……たいへん申し上げにくいのですが……」

「グローのことだろ?あんな状態で大丈夫なのかって」

「ええ、そうです!昨日は偉そうな口ぶりだったのに、今朝はあの酒臭さ!圃矮人の従業員たちも呆れて……商会始まって以来ですよ!」


 ピュートが本気でうろたえている。声を潜めてはいるが、耳がぴくぴくしてる。


「酒好きな種族だから、大目に見てやってくれよ」

「好きとか嫌いとかの話じゃありません! いざという時に動けるんですか!? そもそも、護衛が二人だけというのも不安なのに……商品に何かあったら、私の首が飛ぶんですよ……!」


 かなりの動揺だ。ピュートの心配性が出ているが、それも仕方ない。

 元々圃矮人は慎重な性格の者が多い。だから盗賊シーフ義賊ローグに向いているとされるし、それはそのまま商売にも応用が利くのだろう。

 確かに、朝から酒の匂いを漂わせているグローを見れば、不安になる気持ちも分かる。


「心配しなくていい。俺とグローは長年組んできたベテランだ。何かあれば、すぐに動ける」

「ですが、荷馬車は三台あるんですよ!? 例えば、三方から同時に襲撃されたら――!」

「そんな状況にはならんさ」

「根拠はあるんですか?」

「ま、あると言えばあるし、ないと言えばないな」


 俺は肩をすくめて、少し口角を上げる。


「けどまぁ……そのうち分かるさ。俺らを雇ってよかったって、そう思わせてやるよ」


 ピュートは少しだけ目を丸くし、そして小さく頷いた。

 俺はそれだけ言って、事務所を後にした。

 外の空は、いつの間にか群青色に染まりつつあった。まだ朝日そのものは昇っていないが、東の地平線がじわじわと明るくなり始めている。


「そろそろ出発するぞー!」


 先頭の荷馬車で荷の確認を終えた圃矮人が声を張り上げ、馬のたてがみを撫でたあと、軽やかに御者台に乗り込む。それを合図に、他の御者たちも手綱を握った。


「じゃ、行きますか」

「前は任せたぞい」


 俺は輸送隊とは別に用意された馬に跨り、グローは最後尾の荷馬車に乗る。ピュートは真ん中の荷馬車に、書類の束と共にすべり込んだ。


「しゅっぱーつ!」


 掛け声とともに、馬車がゆっくりと動き出す。

 まだ静かな街の石畳を、車輪が規則正しく叩き始めた。

護衛任務、いよいよ出発です。

グローの“燃料”や、ガルの不器用な気遣いなど、日常描写を大切にした回です。

次話からはいよいよ戦闘に片足を突っ込みます。

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