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お前に掛けたれた賞金は安いからいつもなら見逃すのだが  作者: Soh.Su-K
第一章 四節 盗賊団討伐依頼編

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第58話 さっさと尻尾を出してもらおう

失踪した僧侶の足跡を追い、森の奥へ進むガルたち。

静まり返った森が導いた先は、不自然に拓かれた空き地と小さな納屋。

そこに残されていたのは──盗賊団の装備。

真相は「外から来た賊」ではなく「身近な住人」なのか。

 翌朝、俺たちは早々に装備を整え、足跡の追跡を開始した。

 跡は街道を外れ、西へ伸びている。


 細い獣道。人ひとりがやっと通れる幅だ。

 踏み固められた様子はなく、まるで──この道自体が、僧侶の足跡によって新しく刻まれたもののようだった。


 先頭はエルウィン。俺が後方。

 グローはその間を、いつもの調子でどっしり歩いている。


「どこに向かっとるんじゃろうな、この足跡」


「隠れ家だろ。普通に考えりゃ」


「冒険者が自分から隠れ家に入るものか?」


「操られてた可能性が高いわ。他の四人も同じように操られ、監禁されてるのかもしれない」


「精神汚染系の魔法か……。厄介じゃの」


「調べてみりゃ分かる。だから俺たちが来た」


「わかっとるわい」


 森の空気は異様だった。

 鳥も小動物もいない。葉擦れすら聞こえず、まるで草木までもが息を潜めているようだ。

 肌にじっとりとした湿気がまとわりつき、鼻を刺す生臭さが風に混じって漂う。


「……おかしいわね。静かすぎる」


「獣の気配がせん。生き物が避けておる」


「誰かに見られてるような……背に張り付く感じがする」


「慎重に行くぞ」


 右手に投げ小剣(ナイフ)、左手に短剣(ショートソード)を構え、背後を警戒しながら進む。

 休憩所からはだいぶ離れた。

 地図に照らし合わせても、自分たちの位置が曖昧になりはじめている。


「一度街道に戻った方がいいんじゃないか? 現在地すら見失いかけてる」


「大丈夫。私がいるわ。もう少しで着く」


「……もう少し?」


 俺がオウム返しした瞬間、エルウィンが小さく声を上げて小走りになった。

 慌てて俺とグローも続く。


「ここは……!」


 木々が途切れ、ぽっかりと開けた空間に出た。

 直径二十メートルほどの草地。そこだけ森を刈り取ったように、ぽっかりと穴が開いている。


「休憩所……にしては不自然だな」


「商会が街道から離れてこんな所に作るわけない」


「アレを見ろ」


 グローが顎で示した先に、小さな納屋があった。

 人が一人寝泊まりできるかどうかの粗末な小屋だ。


「ここが隠れ家……?」


「有り得ん。これじゃ六人も入れん」


「なら、ここは()()か……」


 俺は納屋へ歩を進めた。


「ちょっとガル!」


「慌てるな。罠も仕掛けもねぇ」


「でも──!」


「小娘、ガルを信用せい」


 グローの笑い声に背中を押されるように、俺は扉を開け放った。


「……やっぱりだ」


 中には、盗賊団の目撃情報と一致する武器や防具が無造作に置かれていた。

 革鎧(レザーアーマー)長剣(ロングソード)、粗末な槍。

 床には縄が散らばり、その一部には乾いた血が黒く染み込んでいる。

 人為的で、しかも急ごしらえの匂い。


「つまり、盗賊団は流れ者じゃなく──地元の住人ってことだ」



 俺たちは一度休憩所へ戻った。

 昼時。簡単に食事を摂りながら作戦を練る。


「納屋からの足跡はごちゃ混ぜだ。数が多すぎて追えん」


「で、どうするのよ、ガル?」


 俺は紙に走り書きをしていた。


「手紙を書いてるの?」


「エルウィン、悪いが街まで戻ってこれを届けてくれ」


「誰に?」


「表に名前を書いてある。街の奴に聞けばすぐ分かる」


「お主が行けば早いじゃろ。手間も省ける」


「俺はもう少し調べたい。それに、お前の脚なら一日で往復できるだろ」


「……つまり、私を走らせたいわけね?」


「森を駆けるのは得意だろ。まさか人間ヒュームの脚に負けるとは言わねぇよな?」


「ほんっと、人使いが荒いんだから」


 そうぼやきながらも、エルウィンは手紙を受け取り、最低限の荷を背負って森に消えていった。


「で、何をさせる気だ?」


「すぐ分かるさ。……それより、俺たちは近隣の村に行く。情報収集だ」


「ワシは酒があれば何処でも構わんぞ」


「助かるな。顔の厚さはお前の取り柄だ」


「だが、いきなり訪ねても平気か?」


「何だ、怖いのか?」


「ワシを見縊(みくび)るでないわ!」


 俺は地図を広げ、休憩所から最も近い村を指差した。

 徒歩で半日はかかる。今夜はそこで宿を取るつもりだ。


「宿があるなら野宿せんで済むの」


「犯人が住んでる村かもしれねぇぞ。夜襲もあり得る」


「盗賊に負けるわけなかろう」


「油断すんな。毒には特に気をつけろ。解毒薬(アンチドート)を多めに渡しておく」


「心得た。飲み食いには注意する」


「全耐性ポーションも先に飲んでおけ」


「分かっとるわ。……さっさと行くぞ」


 準備は整った。

 俺たちは村に足を運ぶ。


 ──鬼が出るか、蛇が出るか。

 敵が動くのを待つのではなく、こちらから揺さぶって()()()()()()()


 そういう戦い方のほうが、俺には性に合っていた。

お読みいただきありがとうございました。

今回は、森の中で“納屋”を発見し、盗賊団の正体に新たな可能性が浮かび上がりました。

ガルの狙いは、あえて聞き込みを行い、敵に“尻尾を出させる”こと。

舞台はいよいよ近隣の村へ──。

果たして彼らを待つのは協力者か、それとも敵か。次回もお楽しみに。

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