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お前に掛けたれた賞金は安いからいつもなら見逃すのだが  作者: Soh.Su-K
第一章 四節 盗賊団討伐依頼編

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第57話 早々にフラグ回収するのはやめてくれ

盗賊団討伐の依頼を受け、南の街道へ向かったガルたち。

しかし現場で見つけたのは、行方不明となった冒険者たちの拠点跡と、不穏な痕跡だった。

黒い靄のように漂う“残滓”──それは、ガル自身の過去にも繋がるもの。

不安を抱えながら、調査が始まる。

「隠れ家にしやすい場所はどこだと思う? エルウィン」


 俺たちは南の街道を歩いていた。

 街から一日ほどの距離に被害が集中しているらしい。

 この辺りは人通りが少ない。南方は荒れた平野が広がり、その先は砂漠。人影も乏しく、必然的に往来も少ない。


「……洞窟とか?穴蔵みたいな場所よね」


「だが南は平坦じゃ。洞窟などありゃすぐ見つかる。そんな楽な話じゃなかろう」


「グローの言う通りだ。この辺りに天然の拠点はない。つまり?」


「……人工物?小屋でも建ててるとか」


「あるいは近隣の集落の住民が、夜だけ野盗をやってるって線もある」


「ふむ……なるほどね」


 推測を交わしながら進んだが、襲撃を受けることもなく目的地に着いた。

 そこはフィロー商会が設営した休憩所。以降の調査の拠点とする予定だ。


「見ろ、こいつは──」


 グローが指さしたのは、まだ新しいテントと焚火跡だった。

 寝袋の数も五つ。間違いなく、行方不明になった冒険者五人組のものだ。

 焚火の灰はまだ冷えきっていない。まるで、ほんの数刻前まで人がいたかのようだ。


「……何とも気味が悪いのぉ」


 グローが荷を降ろしながら、低く呟いた。


「引継ぎ依頼なんてそんなもんだ。前の連中が帰らないから、次に回ってくる」


 俺も荷を降ろし、休憩所内を調べる。

 だが争った痕跡も、血痕すらも見当たらない。

 恐らく、ここを出発してから姿を消したのだろう。


「五人の編制は?」


人間(ヒューム)の剣使いが二人、斥候の圃矮人(ハーフリング)が一人、耳長人(エルフ)の魔法使いが一人、僧侶の人間が一人」


「悪くない布陣だ。それで全滅とは……」


「何が潜んでるか分からん。警戒して損はない」


「今日は野営だな。調査は明日に回すか」


「日も暮れるしな」


 俺たちは先客のテントをそのまま借りることにした。

 寝袋だけは持参のものに替えたが、それ以外はあえて動かさない。

 妙な生々しさが残る中、俺は飯の準備に取りかかった。


「ガル、ちょっと」


 エルウィンが休憩所の隅で呼んでいる。

 足元を凝視していた。


「どうした?」


「これ、見える?」


 指差されたのは足跡。

 ただの靴跡に見えたが──目を凝らすと、薄い靄が立ちのぼっている。

 黒い、煤のような煙。視界の端で揺らめき、嗅覚をくすぐるような焦げ臭さを伴っていた。


「……黒い靄?」


「そう。見えるのね、ガルにも」


「いや……気のせいかと思ったが」


「それで充分。これは魔術の残滓よ」


「魔法じゃなくて、魔術……だと?」


 確かに聞いたことはある。

 魔法を使えば必ず魔力の残滓が残る。雨や風で消えやすいはずだが、これはしつこく地面にまとわりついている。

 しかも魔術となれば話は別。現代で使える者はほとんどいない。


「魔術残滓が見えるのは、素質がある証。グローには全く見えないわ」


「そういえば……お前、前に俺に魔術の素質があるかもって言ってたな」


「単刀直入に聞くけど──犯人は、あんたじゃないわよね?」


 胸がざわめいた。

 闇魔術の紋章をウラグから受け取ったことを思い出す。

 だが俺は何もしていない。


「まさか! 俺が何のためにそんな真似を!」


「分かってる。本気で疑ってるわけじゃない。ただ──これは闇の魔術の残滓。今のところ、闇魔術を扱える存在は……貴方くらいしか思い当たらなかったのよ」


「だとすれば、暗黒種族の仕業か」


「しかも、上級の魔術師(ストライゴン)クラス」


 やっぱり、グローの「どうにかなる」はフラグだった。

 背筋に嫌な汗が滲む。


「おーい、何をこそこそ話しとる?」


 グローが近付いてきた。


「あぁ、エルウィンが足跡を見つけた。恐らく失踪者のものだ」


「ふむ……」


 しゃがみ込み、じっと足跡を観察するグロー。


「人間、女。身長は一六〇ほど。華奢な体格じゃな」


「僧侶だ。特徴が一致する」


「歩幅が乱れておる。足取りはふらついていたはずだ」


「血痕は見えない。疲労によるものか」


「あるいは精神を削られたか……」


 グローは鼻を鳴らし、立ち上がった。


「まぁ、いずれにせよ今は腹ごしらえじゃ。夜の森は不用意に動かんほうがいい」


「同感だ」


 明日は、この足跡を辿る。

 俺たちは冷え切った空気の中、焚火を囲んで夜を迎えることにした。

お読みいただきありがとうございました。

今回は「失踪者の痕跡」と「魔術残滓」が明らかになり、依頼がただの盗賊討伐では済まないことがはっきりしました。

特に闇魔術の残滓は、ガル自身の素質を想起させる重要な要素となっています。

次回は足跡を追跡し、失踪者の行方に迫っていきます。どうぞお楽しみに。

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