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お前に掛けたれた賞金は安いからいつもなら見逃すのだが  作者: Soh.Su-K
第一章 三節 軍令・調査依頼編

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第53話 先に用事を済ませたい

エルウィンが冒険者になると宣言。

さらに「魔術も使える」と口にし、ガルの《印》へも意味深な視線を向ける。

一方、ゼペットの診察で突き付けられるのは、現実的な怪我の回復の道のり。

用事を済ませた先で待つのは、冒険者ギルドでの新たな一幕だった。

 翌日、昼過ぎに目が覚めた。

 エルウィンはしばらくセリファの家に預かってもらうことになった。現代と古代の差はあっても、同じ耳長人(エルフ)同士の方が安心できるだろう。

 昨夜は相当な量の葡萄酒を飲んでいたが、足取りはしっかりしていて、セリファの家まで自分で帰っていった。……どうやら酒に滅法強いらしい。古代耳長人、恐ろしい。


 俺はというと、ゼペットに診察してもらうため、ほどほどで飲むのをやめた。禁酒令を出されている身で二日酔いなんか見せたら、あの老耳長人に説教されるに決まっている。


「ガルー?」


 紙巻煙草に火を点けたところで、扉の向こうからエルウィンの声。


「何だ?」


 ドアを開けると、満面の笑みのエルウィンが立っていた。


「冒険者の登録に行こう!」


「はぁ……どうしても冒険者になりたいんだな」


「弓の扱いには自信があるの!それに……」


 エルウィンは周囲を確認すると、俺に耳打ちする。


「多少、魔術も使えるから」


 その一言に、胸がざわついた。ウラグの言葉が脳裏をよぎる。


「魔術は、この時代じゃ御法度だぞ。属性に関係なくな」


「知ってるわ。研究所で散々聞いた。でも……ここまで()()()()()とは思わなかった」


「変わってる?」


「魔術と魔法の違い。根本的に違うのね」


「あぁ、かなり違うらしいな」


 エルウィンは急に黙り込み、俺をじっと見つめた。


「なんだよ?」


「ガル、その()……どこで貰ったの?」


「はぁ?」


「……今はいいわ。ここで話すのは危険ね」


 含みのある言い方に、背筋が冷える。俺にはサッパリ意味が分からない。


「何の話だ?」


「まぁ、いずれ。とにかく、登録よ!」


「……はぁ。分かった。だが先に風呂だ」


「お風呂?じゃあ私も行く!」


 付いて来る気か。……まぁいい。公衆浴場に行き、その後ゼペットの診察、最後にギルドだ。



 ゼペットの診察結果は順調、ではあった。だが期待していた固定具の解除は叶わず。骨のヒビはあと少し、回復には半月を要するという。しかも外した後はリハビリ。左手の指はすでに硬直しており、思うように動かない。完治は簡単ではない。


「ガル?」


 ギルドへ向かう途中、エルウィンが思い出したように声をかけてきた。


「なんだ?」


「その手……私が治してあげよっか?」


「……は?」


 何を言ってるんだ、コイツは。


「そう簡単に治る訳がないだろ」


「魔術なら出来るわ」


 あっけらかんとした顔で言うエルウィン。


「私の属性は光。回復系も使える」


「ちょっと待て」


 光属性の魔法に回復はある。だがそれは自然治癒力を促す程度の“促進術”だ。骨折を完全に治すには、数週間かけて魔力を注ぎ続ける必要がある。


「そんな芸当、できる訳ないだろ」


「できるのよ。魔術なら」


 にっこりと笑う。

 ……もし本当なら、魔法と魔術の差はとんでもなく大きい。


「でも、いきなり治ったら先生が腰を抜かすぞ」


「あー、それはあるわね」


 歩きながらのやりとりに、俺は何とも言えない違和感を覚えた。大昔は、それが当たり前だったのか……。


 そうしているうちに、ギルドへ着いた。



 目の前にそびえるのは石造りの大きな建物。この街の冒険者ギルドだ。主要都市だけあって、職員だけでも百人はいると聞く。

 三階建てで、一階は依頼受注カウンターと事務所。二階以上は職員専用だ。厚い扉は大きく開け放たれ、出入りする冒険者の数も多い。


「ここが冒険者ギルドだ」


「……大きいわね」


 エルウィンが感嘆の声を漏らす。


「あそこが登録用のカウンター。こっちが依頼の受注カウンター。俺たちには関係ないが、奥が発注用だ」


「ふ~ん」


「まずは登録だ」


 俺はエルウィンを連れて登録カウンターへ向かう。


「あれ?ガルさん、どうしたんです?もしかして登録抹消ですか?」


 カウンターに座っていた女の圃矮人(ハーフリング)が俺を見つけ、にこやかに声をかけてきた。……余計なことを言うな。


「違ぇーよ」


「怪我されたと聞いてましたから、てっきり廃業かと」


「相変わらず笑顔でとんでもねーこと言うな」


「廃業じゃないなら何です?私も暇じゃないんですよ?」


「こいつの登録を頼む」


「こいつ……?」


 圃矮人はやっと俺の後ろにいるエルウィンに気づき、目を丸くした。


「お美しい耳長人さんですね!ガルさんの新しい彼女ですか?」


「違ぇーよ。知り合いだ」


「ほんとに?ガルさんは耳長人好きって噂ですけど?」


 ……ぶん殴っていいか?


「誰がそんな噂流してんだ」


「まぁまぁ、噂は噂です。で、手続きですね。耳長人のお嬢さん、こちらへどうぞ」


 エルウィンは促され、カウンター席へ座った。

 手続きは時間がかかるだろう。俺は依頼掲示板(ボード)へ足を向ける。


 久しぶりに眺める依頼の数々。普段はグローに任せきりだからな。


 ……さて、今日はどんな厄介事が転がっているのやら。

ゼペットの診察、エルウィンの魔術の告白、そして冒険者ギルド。

説明と日常の中にも伏線と笑いが散りばめられ、物語は次なる局面へ。

次回は、エルウィンの冒険者登録がいよいよ本番を迎えます。

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