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お前に掛けたれた賞金は安いからいつもなら見逃すのだが  作者: Soh.Su-K
第一章 三節 軍令・調査依頼編

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第52話 厄介事を持ち込まないでくれ

ステーキとエールに舌鼓を打つ――はずが。

現れたのは、かつて眠れる美女だった古代耳長人エルフ・エルウィン。

「養って」「仲間にして」……頼まれてもいないのに厄介事が雪崩れ込んできます。

「それで、この人は誰なの?」


 セリファが床掃除をしながら俺に問いかけてきた。

 俺とグローは、大将が焼いてくれた分厚いステーキを頬張っていた。

 皿に残った肉汁をパンで拭って口に放り込み、エールで流し込む。旨いが、今は脇役だ。今日の主役はどう考えても目の前の美女だ。


「あ?あぁ、エルウィンだ。ほらこの間、矮鬼ゴブリンの部隊を殲滅した時に見つけた穴の先にいた眠れる美女」

「この人が!?」


「改めまして、私はエルウィン。ガルに助けられた古代耳長人エルフの唯一の生き残りです」


 俺とグローは思わず箸……いや、フォークを止めた。

 流暢な現代耳長人語が、すらすらと。


「お主!喋れるようになったのか!?」

「スゲーな!あれからまだ3ヶ月も経ってねぇだろ!」

「研究所で翻訳を手伝っていたら自然と覚えちゃったの。現代耳長人語って簡単ね」

「ガハハ!古代語の方がよほど難しいからのぉ!」


 ……まさか、こんなに早くペラペラになるとは。


「祝いだな!セリファ、エルウィンにもエールを!代金は俺が出す!」


 セリファは「またか」と呆れ顔で溜息を吐きつつ、厨房へ向かった。


 やがて運ばれてきた大ジョッキ。

 泡がこんもりと盛られた琥珀色の液体が、灯りを受けて黄金に輝く。


「これが、エール……」


 エルウィンは両手で抱えるようにジョッキを持ち上げ、慎重に鼻を近づける。


「……フルーツみたいな香り」

「そうだ。この辺りで作られるエールはフルーティーで少し甘め。飲みごたえも軽いから初心者向けだ」

「南は苦味、北は焦がし麦で黒い、あとは西のハーブ入りか。まぁ、飲んでみりゃ早い」


 俺が促すと、エルウィンは恐る恐る口をつけ――。


「っ!?!?」


 目を白黒させた後、ごくりと喉を通し、ぱっと顔を上げる。


「な、何これ!甘いのに奥に苦みが隠れてる……不思議な味!でも、美味しい!」

「だろ?」

「体が熱くなる……!」

「ガハハ!それが酒じゃ!」


 俺もぐいっとあおる。泡の切れと甘苦い余韻が舌に残り、喉を通るたびに腹の底からじんわり熱が広がる。……やっぱり、エールは最高だ。



「で、本題だ。なんでわざわざこの街まで?」


 夜。大将の店は常連で賑わい、隣ではグローがジョッキを抱えたまま寝息を立てている。

 向かいのエルウィンはほんのり桜色の頬をして、葡萄酒の水割りをちびちびやっていた。


「もちろん、ガルに会いに来たのよ」

「俺に?……いや待て、王都での仕事はどうした」

「辞めた」

「……ふーん」


 チーズをかじりながら、思わず生返事を返す。……いや、今辞めたって言ったか?


「はぁ!?研究所を辞めたのか!?」

「ええ。必要とされなくなったから」


 エルウィンの説明は簡潔だった。

 古代文字の解読は既に大半が終わっていて、彼女が思い出せる記憶もすぐに底を突いた。結局「使えない」と判断されたらしい。


「1ヶ月もしないうちに、私が出せる情報も尽きて。居場所がなくなっちゃったの」


 あっけらかんと言うが……胸の奥は不安でいっぱいだったに違いない。

 頼れる相手もいない現代、最後の居場所だった研究所からも弾き出されたのだから。


「まぁ、事情は分かった。とりあえず王都に戻って退所の手続きでも――」

「もう済ませたわ」

「は?」

「だから、私はもう研究所を退所してるの」


 ……つまり、今のエルウィンは完全に無職。


「ちょっと待て、じゃあ本気で俺を頼りに来たのか!?」

「そうよ?何かおかしい?」

「はぁ……」


 豪胆なのか無鉄砲なのか……頭が痛ぇ。


「どうやって生きていく気なんだ」

「だから、ガルに養ってもらおうと」

「それはどういう意味だ……」


 その時――。


「結婚するって意味以外にないだろ」


 隣でむくりと起き上がったグローが、爆弾を投げ込んできた。


「お前、寝てたんじゃねぇのかよ!」

「今起きた。エールもう1杯!」

「まだ飲むのか……」

「それより、良いではないか、結婚すれば」

「飛躍し過ぎだ!」

「結婚かぁ、それもいいわね」

「よくねぇ!」

「何?私じゃ不満なの?」


 エルウィンがにじり寄って来る。

 間近で見ると、その美しさは息を呑むほどだ。透き通る肌、柔らかな光を帯びる髪。まるで宗教画の天使。


「……ちょっと待て、それ《《も》》ってどういう意味だ?」


「私も冒険者になりたいの!」


 満面の笑顔。


「は?」

「ガハハ!」


「私をガルの仲間に入れて!」


 エルウィンはキラキラと瞳を輝かせ、グローは酒を煽りながら大笑い。

 俺はもう、頭を抱えるしかなかった。

エルウィン、研究所を飛び出してガルの元へ。

可愛いかと思えば大胆、酔えば爆弾発言……セリファの視線も刺さり、ガルの胃はもう限界寸前。

果たして“仲間入り”は認められるのか、それともただの嵐の予兆か――?

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