表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お前に掛けたれた賞金は安いからいつもなら見逃すのだが  作者: Soh.Su-K
第一章 三節 軍令・調査依頼編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/67

第51話 やはりエールは旨い

王都での任務を終え、久々の帰還。

グローと酒を酌み交わし、ようやく肩の力を抜いたガル。

「やっぱエールは旨い」──その瞬間、酒場の扉が開きます。

「しかし……()()()、どうするつもりなのかのぉ」


 街へ戻る荷馬車の中、グローがぼそりと呟いた。

 上将軍との謁見は、結局一時間ほどで終わった。

 軍司令本部の移転──そして、西方の九龍会(クーロンカイ)

 グローが指しているのは、どちらの話だ?


「あの話って?」

「移転の話だ。丸々動かすには拠点の整備が要る。だが、あの規模なら十年は掛かるぞ?……それで間に合うのかのぉ」

「間に合わんだろ。九龍会の内部抗争なんて、長くても数年だ。何をそこまで恐れてるのか……」

「そうじゃ。所詮はヤクザの抗争だ。軍がその気になれば、一掃するのも造作なかろうに……」


 全くその通りだ。

 確かに九龍会は西方全土、南北の一部にまで根を張った巨大組織だ。

 だが、所詮は裏社会の連中。軍が本腰を入れれば、骨抜きにするのは難しくないはずだ。


「しかしガル、どうして九龍会の名を知っておる?」

「あ?」

「東方では全く耳にせんぞ」

「……まぁ、賞金稼ぎ(バウンティハンター)になる前は色々と放浪してたからな」

「ふむ……」


 グローが酒瓶を煽る。


「それにしても、お主が東方に住み着いた理由は?」

「ん?」

「放浪してたなら、どこに住んでもよかろう」

「あぁ、それは──大将だよ」


 大将。

 かつて西方司令部の憲兵だった男で、スラムのチンピラだった俺を何度も捕まえ、何度も説教してくれた。

 引退後、故郷の東方で店を構えると聞いた時──俺はその街に腰を落ち着けた。

 大将だけが、俺にとっての“家族”みたいな存在だったからだ。


「ほぉ~、なるほど」

「賞金稼ぎになったのも大将の助言だ。『軍には入れんだろうが、せめて剣で人の役に立て』ってな」

「いい言葉だのぉ」

「駆け出しの頃は食うにも困って、大将の店でツケばっかだったけどな。……今じゃ全部返したさ」

「ガハハ!真面目な奴よの!」

「誰が真面目だ」


 俺とグローの笑い声が、荷馬車に響いた。

 軍の思惑なんざどうでもいい。

 報酬もホクホクだし、俺はもうしばらく骨休めと洒落込みたい。



 約一か月ぶりの街。

 特に変化はないが、その“変わらない風景”にホッとした。

 腹も減っていたので、自然と足は大将の店へ。


「大将ぉー、いるか?」


 裏口から声をかけると、奥から大将が顔を出した。


「おぉ、ガル!無事だったか!」

「おう。ただいま戻った。それでさ──」

「そういや、耳長人(エルフ)の娘がお前を探して来てな」

「あ?」


 出鼻をくじかれた。俺に来客?


「耳長人?」

「人形かと見紛うほど綺麗な女だった。知り合いじゃないのか?」

「誰だ、それ……?」


 まったく心当たりがない。


「今はセリファの家に泊まってるぞ」


 その時、タイミングよくセリファが出勤してきた。


「ガル!いつ帰って来たの!」

「さっきだ。で、その来客って──」

「ちょっと待ってて、今呼んで来る!」


 セリファが飛び出していく。


「忙しい耳長人だのぉ」


 グローもやってきて、早速カウンターに座る。


「大将、俺とグローにステーキな。肉を焼いてくれ」

「エールも頼むぞい!」

「開店前から好き勝手言いやがって……。まぁいい、ちょっと待ってろ」


 樽から注いだエールを掲げる。


「依頼お疲れさんってことで」


 乾杯。

 黄金色の液体が喉を流れ落ちていく。


「……あぁ、やっぱエールは旨い!」


 幸せを噛み締めた、その時。


 店の扉が勢いよく開かれた。


「ガル!」


 銀糸のような髪、白磁のような肌──完璧すぎる耳長人の女。

 その姿を見て、胸の奥で記憶が閃いた。


「……エルウィン」


 名を呼ぶより早く、彼女は俺に飛び込み、タックルのように抱きついてきた。

緩んだ空気を切り裂くように現れた、銀髪の耳長人。

名を呼ぶより先に抱きつかれたガルは、ただ唖然。

……だがその背後には、セリファとの関係という厄介な火種が潜んでいる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハイファンタジー シリアス 内政 陰謀 男主人公 策謀 裏切り 教会
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ