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お前に掛けたれた賞金は安いからいつもなら見逃すのだが  作者: Soh.Su-K
第一章 三節 軍令・調査依頼編

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第50話 そんな話は聞きたくない

調査任務を終え、王都へ戻ったガルたち。

彼らを待っていたのは、上将軍への直接報告──。

しかし、ただの成果報告の場は一変し、思わぬ“国家の核心”に触れることになるのだった。

「うむ、ご苦労だったな、諸君」


 王都中枢区、軍本部の上将軍執務室。

 広く重厚な室内にしては飾り気がなく、しかし机の上に積み上がった書類は威圧感すらある。

 それら全てに目を通しているのだとしたら、この上将軍という男は相当な変わり者か、ただの暇人だ。


「まぁ、座ってくれ」


 俺たちは案内されたソファに腰掛ける。手入れの行き届いた黒檀エボニーのテーブルと、しっかりした造りの椅子。王国最高司令官の執務室にふさわしい落ち着きがある。


「報告を頼む」

「はい。まずはこちらを」


 サリィンが調査報告書の一部を差し出した。


「ん?これだけか?」

「いえ、データや地図など、他にもあります。ご覧になりますか?」

「ああ、受け取ろう。全てに目を通して、しかるべき部署に回しておく」


 サリィンが視線を送った先、入口横には台車に山積みにされた報告書の束。

 どれだけ分厚いんだ、あれ。


「……ガル、ワシを暇人だと思っておるな?」


 ドキリとする。何でバレた。


「い、いや、そんなことは……」

「ワシはな、暇ではないが、目を通さんと落ち着かん性質でな」


 このオッサン、ただ者じゃない。


「さて、聞きたいのはお主らの見解だ。あの場所に東方司令部を移す案、どう思う?」


 まるで子供のように目を輝かせてくる。

 御前裁判でのあの厳格な印象は何だったのか。


「俺は専門外だからな。グロー、どう思う?」

「……一つ問うてもよいか?」

「ああ、構わんよ」

「その前に、人払いを願いたい」


 部屋に緊張が走る。補佐官が目を剥いた。


「な……! しかし……」

「これは軍の最重要機密に関わる話だ。彼らにも聞かせられん。下がってもらおう」


 渋々補佐官たちが退室し、足音が遠ざかる。


「ここに、軍司令本部規模の地下基地を作るつもりか?」


 静寂の中にグローの声が落ちる。


「な、なんだって?」


 グローは俺を見ずに、上将軍に向かって話し続ける。


「地質調査にしては深すぎる。通常の建設であれば、あそこまで掘らせはせん。東方司令部移転の話は、単なる建て替えでは済まんのだろう?」


 上将軍は黙ったまま、グローを見つめた。


「お主は誤魔化せんな。……その通りだ」


「王都が陥落する可能性を見越しての策か?」


 サリィンとコフィーヌが息を呑む。俺も言葉が出ない。


「王都……が?」


「ゼロではない。ならば、備えるべきだろう?」


「だが、それなら各方面軍に機能を分散させる案もあったはずだ。何故、あの盆地一択にした?」


 俺の頭にある可能性が浮かぶ。


「……西に、何か懸念があるんじゃないか?」


 その問いに、上将軍は笑った。


「グロー、お主の相棒は冴えておるな。補佐官に欲しいくらいだ」


「アンタが失脚してもいいならな」


「はっはっは、それは困る。……さて、ガル。西の懸念とは何だと思う?」


 俺の脳裏に、かつての裏社会の記憶が蘇る。


「『九龍会クーロンカイ』──王国西方を牛耳る犯罪組織」


 グローとサリィンが揃って「は?」という顔をする。


「裏社会の連中だ。けど、ヤツらの抗争が軍にどんな関係がある?」


「問題なのは、単なる抗争では済まないかもしれんという点だ」


 上将軍の顔が、一気に戦略家のそれへと変わった。


 俺は、また嫌な未来が口を開けて待っているのを感じた。

「王都陥落」という言葉。

そして、西方を牛耳る裏社会の巨魁クーロンカイ

軍の最上層が抱える現実に、ガルたちも否応なく巻き込まれていく。


……とはいえ、ガルにとっては“そんな話は聞きたくない”のが本音。

物語は、さらに大きなうねりへと向かいます。

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