第48話 師範代なんてガラじゃない
グローの“スパルタ”稽古に続き、今度はガルが“師範代”に任命……?
素振り、太刀筋、タイミング、突きの工夫──
意外と熱い剣術講義が、静かに始まります。
「結局、同じ腕の振りから、斬撃と突きのどちらも繰り出せれば最強ってことだ」
グローがスープを啜りながら、稽古の総評を語る。
……って、おい。干し肉、明らかに使いすぎだろうが。
保存用に残しておいた分まで手を出してるな、コイツ。
明日はグローに狩りを任せよう。猪でも兎でも何でもいい、狩ってこい。
「それって可能なんですか?」
「無理なことのほうが多いな」
「本末転倒では……?」
「まあ、そう言うなって」
俺は手刀を使いながら説明を始める。
「サリィン、お前は袈裟斬りの後、ほぼ確実に逆袈裟に振りかぶる癖がある。それを読まれたら終わりだ」
「……はい」
「昨日、グローに剣を踏まれたのも、それが原因だ」
「ぐぬぬ……」
コフィーヌは真剣な顔で、手元で袈裟や逆袈裟の動きを反復している。偉い。
グローは黙ってスープをおかわりしている。聞け。
「近接戦は、相手の防御の選択肢を増やして迷わせることが大事だ」
「……もう少し詳しくお願いします」
「袈裟斬りの次が逆袈裟だと読まれてたら、相手は一択で防げる。じゃあ、そこに突きを混ぜたらどうだ?」
俺は立ち上がって棒を構える。
「斬りから返さず、握り込むようにして突く。そうすれば突きは速いし、剣を返す手間もない。防御の選択肢が二つに増えるだけで、防がれる確率は半分になる」
「なるほど……!」
「更に、下段に流すように薙ぎ払えば、選択肢は3つ。確率は約三三%まで下がる。騙し合いだよ」
サリィンは立ち上がってゆっくりとその動きを反復する。
「攻撃が単調になると、リズムが読まれて終わりだ。冷静に、複数パターンを持つこと。それが生き残る秘訣だ」
「ガハハ、師範代らしいのぉ」
グローのニヤニヤ顔が鬱陶しい。人のこと散々放り投げといて……。
「だったらお前が教えろよ」
「ワシは斧使いだからの。突きなぞ知らん」
「それなりの言い訳用意してやがる……」
するとサリィンがふと質問を投げかけた。
「でも、突きを使わないと先を読まれてしまうんじゃ……?」
「ふむ、いい質問だ」
グローがどっかりと座り直す。
「剣と斧の違いは何だと思う?一番は重さよ。そしてな、斧は突きをせんでもいい。理由は単純、相手を武器ごとぶった斬れるからじゃ」
わかりやすくていい例えだ。
それが出来るのが、グローみたいな怪力鉱矮人限定ってことも忘れてはいけないが。
「さて、次はコフィーヌだな。お前は、足が止まりすぎだ」
「足……?」
「その場での突きばっかりで、全部タイミング同じ。読まれて掴まれたのはそのせいだ」
俺はまた棒を構えてみせる。
「その場で出す突き。踏み込みと同時に出す突き。踏み込んでから出す突き。この三種だけでもタイミングは変えられる」
コフィーヌはすぐに立ち上がって、それを真似してみせる。よしよし。
「そして、狙う部位も増やせ。頭、喉、胸、腹、股、脚。突ける場所は山ほどある」
「突剣に変えるって選択肢も……」
「ありだ。相手を倒すのが目的だ。手段や剣の形に拘る必要なんてない」
「ふぅ……今日の講義は終わりじゃな?」
グローが笑いながらスープを飲み干す。
「もう疲れたわ。俺は“教官”には向いてない」
「いやいや、中々の師範代ぶりじゃったぞ?」
誰が“師範代”だ。似合わなすぎて鳥肌が立つわ。
ガル式バトル指南、ひとまず終了。
サリィンもコフィーヌも、それぞれ成長の兆しが見えてきました。
でも、ガル本人はというと──「教えるのはやっぱ疲れる」らしい。
次は、実践編……くるか??




