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お前に掛けたれた賞金は安いからいつもなら見逃すのだが  作者: Soh.Su-K
第一章 三節 軍令・調査依頼編

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第47話 怪我人に指南役をさせるな

戦場の空気はなし。敵の気配もなし。

ただ、今日も調査・地形・スープ作り──

あまりの平和さに飽きてきたグロー、ついに稽古を始める。


「怪我人ガル、剣術指南役に抜擢──!?」

「2人とも、全然なっとらん!」


 スープを啜りながら、グローの怒号が飛ぶ。どこか上機嫌なその声が、空気を震わせた。


「そうか?センスは良かったと思うが」

「センスだけで勝てるなら苦労せん。詰めが甘すぎる。いいか、よく聞け」


 グローの指摘は理にかなっていた。

 格上相手に挟撃は正解。サリィンが斬撃、コフィーヌが突きに特化して攻める構成も悪くない。

 ただし──


「動きが単調すぎるんじゃ。位置関係が固定されとる。これでは目が慣れるのも早い」


 確かにその通りだった。

 もしタイマンなら、斬撃と突きを混ぜて相手のリズムを崩すのが基本。

 だが、今回は人数差を活かせていなかった。


「特にコフィーヌ、突く場所が甘い。弱点を突かねば意味がない」

「弱点……ですか」

「甲冑を思い浮かべろ。防御力は高いが、関節部や隙間はどうしてもできる」


 重装兵は機敏に動けない。その代償を突くべき──それがグローの教えだった。


「あと、お主らの太刀筋、素直すぎて先が読める。攻撃の出端から丸わかりじゃ」


 スープをパンに染み込ませながら、グローは説教を続ける。

 ……我ながら、今日のスープは出来がいい。

 干し肉の塩気が野菜の出汁に滲みて、パンの粗さとよく合う。


「腸詰なんかあったら完璧だったな……」


 ポツリと呟いた俺の声に、唐突な沈黙が訪れた。


「ガル、聞いておるか?」

「あ?」


 サリィン、コフィーヌ、そしてグローの視線が揃って俺に向いていた。


「……聞いてなかった」

「だから言ったのだ、ワシよりお主の方が剣の心得は深い。指南を頼む」

「はぁ!?」

「ワシは斧使いじゃ。構えも捌きも違う。お主の刀の方が参考になる」

「いや、俺のは普通の剣と違うし──」

「そこまで変わらん」

「雑だな、おい」

「ガル殿、お願いできませんかっ!」


 2人が揃って頭を下げる。

 この空気、断れない。


「……分かった。長剣ベースの基本なら、教えてやる」


 グローが高らかに笑って酒瓶を煽った。面倒ごとを押し付けた張本人が、なんとまぁ気持ちよさそうなことか。



 正直、俺が最初から刀を使っていたわけじゃない。

 元々は平凡な長剣だった。どこにでもあるような、ありふれた武器。

 得意だったのは槍で、剣はそこまでだった。

 そんな俺の流れを変えたのは、ある日、師匠が連れてきた──言葉も通じぬ、奇妙な人間(ヒューム)だった。


 その男が作り上げたのが、今の俺の刀。

 最初は誰も扱えなかったが、なぜか俺には手に馴染んだ。

 鋭さとしなりを兼ね備えた刃。それが、俺の戦い方を変えた。


「とはいえ、教えるってのは難しいな……。ま、まずは素振りだ」


 2人は言われるがまま、剥き身の長剣を握り素振りを始める。

 風を切る音が耳に心地いい。太刀筋も真っ直ぐで綺麗だ。


「……いい感じだな」

「ありがとうございます!」


 そこへ、横からグローの野次が飛ぶ。


「だから、太刀筋はええと言ったじゃろうが」


 はいはい、言ってたね。


「で、グロー教官殿?太刀筋が読みやすいってのは……」

「一度手合わせしてみろ」

「いや、俺、怪我人……」

「右手は動く。棒だぞ?問題なかろう」

「納得いかねぇ……」


 観念して立ち上がる俺。


「殺す気で来い」

「えっ、でも、ガル殿の左手が──」

「遠慮すんな。任務中の事故なら保険出るだろ」

「……はい」


 サリィンが地を蹴った。

 その目は、本気だった。

まさかの“教官ガル”回。

サリィンとコフィーヌ、それぞれの素振りにも個性が出てきたところで、

次は模擬戦?それとも本番……?


次話、サリィン本気の一撃が飛ぶ──かも?

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