第44話 焦りは禁物だ
ガル、魂世界から現世へ帰還。
しかしその第一声は「顔が近い」──グローの心配もどこ吹く風。
そして物語は、ちょっとした“やらかし”から再び動き始めます。
「ガル!起きたか!」
ぼやけた視界の向こうから、グローの顔がぐっと近付いてきた。
「……顔が近いって」
俺は咄嗟に手でグローの顔を押し返しながら、寝転んでいた身体をゆっくり起こした。
「なんだよではない!」
「呼吸も心臓も止まっていたんですよ!?」
サリィンとコフィーヌまで、顔を真っ青にして俺を囲んでいる。
ああ、やっぱり魂と身体が分離するってのは、肉体的にはかなりヤバいことらしい。
「悪い悪い、心配かけたな」
照れ隠しに笑ってみせると、コフィーヌがすぐに近付いてきた。
「どこか痛むところは? 脈は……問題ないですね」
手慣れた様子で手首を取られ、俺は少し驚いた。
「衛生兵の資格持ちか?」
「はい。基礎程度ですけど、応急処置なら一通り……」
真面目な顔で言うコフィーヌに、何となく頼もしさを感じる。
「なんじゃい、心配させおって」
「寝てただけのつもりなんだけどな……」
「心配して損したわ」
グローがぶっきらぼうに背を向ける。照れているのか、気まずいのか、まあその両方だろう。
魂世界でウラグに会ったことは黙っておいた方がいい。あれは説明しても信じて貰えそうにない。
少し煙草でも吸って気を落ち着けようと立ち上がろうとした、その時だった。
「あっ、まだダメです!」
コフィーヌが俺を止めようと近付いた、まさにその瞬間。
「うわっ」
バランスを崩した俺は、そのままコフィーヌの上に倒れ込んだ。
「あいたた……」
咄嗟に支えた手に、柔らかく控えめな弾力が伝わってきた。
「……」
妙な沈黙。
「……あの、手、どけてもらえませんか?」
見れば、俺の手はコフィーヌの胸をがっつりと掴んでいた。
「……コフィーヌ、お前……」
「……はい」
コフィーヌの顔は真っ赤に染まっていた。
「……女だったのか……」
まるで雷に打たれたような衝撃。
俺は反射的に飛び退いて、穴の奥の闇へ消えてしまいたい気持ちになった。
コフィーヌの“秘密”が明かされ、ガルは盛大に動揺。
それでも一行は地上へ戻り、木こりの町の現状を目の当たりにします。
焦らず、騒がず、まずは一歩ずつ。調査編、ようやく本番です。




