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お前に掛けたれた賞金は安いからいつもなら見逃すのだが  作者: Soh.Su-K
第一章 三節 軍令・調査依頼編

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第43話 難しい話は苦手だ

今回は、前回に引き続き「魂世界アーラヤ」でのウラグとの対話編です。


敵だったはずのウラグは、なぜガルに親切にしてくれるのか。

そして、「ここに降りて来られる時点で、お前は我々に近い」という言葉の真意は──?


彼が去り際に託した“力”は、ただの魔術ではありません。

ガルという存在そのものを問い直す、ひとつの“刻印”です。

「ウラグ……だと?あの千人長のウラグ?」


 俺は焦った。

 ウラグと言えば、俺達が捕え、王都へ移送した食人鬼だ。

 そいつが今、目の前にいる。

 霊体の姿で。


「何だ?私を知っているのか?」

「知ってるも何も……」


 言葉に詰まる。

 敵のトップをここまで追い詰め、作戦を潰したのは俺達だ。

 そのことを知られたら、怒りを買うかもしれない。

 しかし──


「俺はアンタを捕まえた部隊の一人だった。アンタの根城だった坑道に斥候(スカウト)として入ったのも俺だ」

単眼鬼(サイクロプス)から逃げ果せた人間(ヒューム)……お前だったのか!」


 ウラグは怒るでもなく、むしろ嬉しそうに笑っていた。


「アンタ、俺が憎くないのか? 計画を潰した張本人だぞ?」

「もうそのような感情は持っていない。結局は私の慢心が原因。誰のせいでもない」


 まるで別人のようだ。

 俺の知るウラグは冷酷な将軍だった。


「アンタ、ずいぶん印象が違うな。もっと寡黙で、非情な奴だと思ってた」

「それは軍を率いる者の仮面だ。本来の私は──こういう性格だ」

「……大変だったんだな」


 俺は自然とその場に腰を下ろした。

 敵同士だったはずなのに、不思議と落ち着く。


「つーか、アンタまだ生きてたんだな。処刑されたと思ってた」

「あぁ、肉体はもうないだろう」

「は?」


 意味がわからなかった。


「魂を自ら切り離した。身体が滅んでも、魂があればこちらに退避できる」

「そんなこと……可能なのか?」

「私は魔術師(ストライゴン)の中でも上位だ。だが、それには代償がある」


 ウラグは語る。

 魂とは不安定なもので、肉体との繋がりを失えば、やがて“集合思念”へと溶けていく。

 ウラグという個も、いずれ消える。


「お前とこうして会話できるのは、奇跡に近い」

「なるほどな……。なんか、不思議だよ」


 俺はぼんやりとウラグを見つめた。

 元は敵。それでも、今は妙に居心地が良い。


「それにしても、なんでそこまで色々教えてくれるんだ? 俺、人間だぞ?」


 その問いに、ウラグは目を細めて笑った。


「それは、お前が人間ではないかもしれないからだ」

「……何?」


「この『闇の魂世界』に降りてこれるのは、我々“暗黒種族”だけ。魔法の素質がある者でも、ここには辿り着けん。だがお前は来た。つまり、お前の魂は我々に近い──『異質』なんだ」


 その言葉が、胸に突き刺さった。

 ──そう、俺には“何もない”と思っていた。

 過去も、血筋も、魔法の才能すらも。


「もしかしたら、お前のルーツは人間ではないのかもしれん」

「……」


 その感覚は、どこかで聞いたことがあるような気がした。

 ただの妄想でもなく、確信でもない。

 でも、納得はしていた。


「ふむ、お前のお迎えが来たようだ」

「……は?」

「魂が戻る。肉体に帰る時が来た」


 視界の奥が、徐々に光を帯びていく。


「ウラグ、アンタには世話になったな」

「こちらこそ、良い時間を過ごせた。そうだ、これを持っていけ」


 ウラグが右手を差し出すと、その掌に闇色の紋章が浮かび上がる。


「闇魔術の基礎だ。本気で修行すれば、使えるようになる」

「おい、王国では禁忌だって言ってただろ?」

「使うかどうかはお前次第だ」


 その瞬間、紋章が淡く光を放ち、俺の胸へと飛び込んできた。

 ズシリと重く、同時に熱い。

 胸の奥、心臓に触れるような鋭い疼きと共に、身体の内側が何かに書き換えられていく感覚があった。


「うっ……」


 呼吸が一瞬詰まり、冷や汗が背中を伝う。


「……なんだこれ……」

「安心しろ。それはまだ眠っている。お前の中で、時を待っているだけだ」


 俺は、ゆっくりと目を開けた。

お読みいただき、ありがとうございました。


今回のメインは、静かに燃える「贈与」の場面。

魂に刻まれる異質な魔術と、それを渡すウラグの言葉が、今後の伏線となっていきます。


ガルの正体は曖昧なままですが、「人間ヒュームとは違うかもしれない」という感覚が本人の中に芽生えたのは、これが初めて。


禁忌の魔術を与えるのが、かつての敵というのも因縁めいていて良いな、と個人的に思っています。


次回は、地上へ──。

現実世界で、またひと波乱ありそうです。

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