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お前に掛けたれた賞金は安いからいつもなら見逃すのだが  作者: Soh.Su-K
第一章 三節 軍令・調査依頼編

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第42話 訳の分からん場所

第42話です。

今回は“どこでもない場所”での不思議な出会いの話。


ガルが迷い込んだのは、「魂世界」──現実でも精神でもない、魂そのものが立つ世界。

そこにいたのは、死んだはずの敵、ウラグ。

彼は語る。「お前は人間ではないかもしれない」と。


これは、ただの邂逅ではありません。

過去と正体、そして「何者かになる」という物語の始まりです。

 何も灯りのない、真っ暗な空間。

 ここはどこだ?

 俺はグロー達と坑道の中で寝た筈。

 しかし、ここは()()()()()()()()

 真っ暗だが、違う。

 グロー達がいないのだ。

 閉鎖された空間特有の息の詰まる感じがない。

 何処までも果てしなく空間が続いているようだ。


「ここは何処なんだ……?」


 俺の声は反響することもなく、空間に吸い込まれていく。

 とにかく歩いてみることにした。

 とは言っても、前後左右も上下もまるで分からない。

 歩いている感覚すら曖昧だ。

 まるで()()()()()()()()()


「何なんだ、これ……」


 しばらく進むと、微かに何かの気配を感じる。

 その方向へ足を向ける。

 気配が次第に大きくなっていく──()()()()()

 俺が警戒しながら近づくと、向こうから声が掛かった。


「誰だ、お前」


 低く唸るような声。

 敵意はないが、友好的でもない。


「俺はガル。人間(ヒューム)賞金稼ぎ(バウンティハンター)だ」

「……人間、か?」


 その声に、わずかな疑念が混じっていた。

 そして現れたのは、身の丈3メートル近い──大きな食人鬼(オーガ)


(やっちまった……!)


 体が動かない。剣もない。

 逃げなきゃ──でも、どこへ?


 俺が後ずさろうとしたその時。


「待て、ガル。ここでは戦えん」


 静かな声音だった。


「私に触れてみろ」


 差し出された手に触れようとしたが──触れない。

 手は空を切り、何も掴めなかった。


「……!?」

「ここは『魂世界(アーラヤ)』。『精神世界(マナシキ)』の更に奥、魂の根源に至る場所だ」


 訳が分からない。


「お前、魔法は使えないのか?」

「使えねぇよ。だったらこんな体張る仕事してねえ」

「だが、ここに降りてこれた。それが何よりの証だ」


 食人鬼は俺をじっと見つめる。


「この場所に降りられるのは、ごく限られた者──とくに『闇の魂世界』に触れられる人間など、皆無だと思っていた」

「俺が人間じゃないってことか?」

「正確には、完全な人間ではないのではないか?そういう魂だ。普通の人間がこの場所に来られるはずがない」


 その言葉に、心臓の奥がざわめいた。

 俺自身、自分の詳しい生まれを知らない。

 だが、何かが──確かに胸に引っかかった。


「俺に構う理由はそれか?」


 問いかけると、食人鬼は小さく頷いた。


「同じ『闇の魂世界』に降りられた者同士。私には、見過ごせん。お前のような魂が、また闇の中から現れた意味を知りたい」


 その眼差しには、戦士としての冷静さよりも、探究者のような熱意があった。


「種族を超えて、魂は語る。──だからこそ、私はお前に親切にしている。ここに来られるというだけで、お前は他とは違う」


 どこか、使命感のようなものを感じた。


「……そうかよ。で、あんたの名前は?」


「私か? 私はウラグ。魔王軍の再興を夢見て、潰えた食人鬼だ」


 その名を聞いた瞬間、思考が止まった。


(ウラグ……あの……?)


 俺の中で、何かが音を立てて軋んだ。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


この話は物理的な戦闘も、明確な事件もありません。

それでも、ガルにとっては「自分自身」という最大の謎に触れる重要な一幕だったと思います。


“魂世界”という新たな舞台、

“ウラグ”というかつての敵であり、導き手のような存在──

ウラグの目に映るガルの魂は「人間とは違う」。


ガルの出自の謎、そして闇魔術との関わりは、やがて物語の核に触れていくはずです。

もしも、彼が“普通じゃない何か”だとしたら──

その時、世界は彼をどう扱うのか。


次回もぜひ、お付き合いください。

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