第41話 土の中で寝るとか冗談だろ?
第41話です。
調査の続き。いよいよ、かつてウラグたちが使っていた通路や塒の内部へと足を踏み入れることになります。
トンネルって言うと、どこか秘密基地っぽくてワクワクしそうなものだけど……現実は、湿気と臭いと雑な掘り方。
土の中に寝泊まりなんて、冗談じゃねえって話です。
「……迷ってる狗鬼がいるな」
先頭を歩くグローが、そんな呑気な声を漏らす。
「サリィン、この調査が終わったら、魔法使える鉱矮人を集めとけ」
「何をするつもりですか?」
「地中道として使わない箇所を全部潰す。安全のためにな」
「……それは確かに有効ですが、迷った狗鬼が穴を掘って外に出る可能性は?」
サリィンの懸念は当然だ。狗鬼は採掘が得意だし、穴を掘ることも朝飯前だ。
「方向感覚はあるだろうが、出られる距離を掘り抜けるだけの根性はない。数匹で掘っても、外に出る前に飢えて干からびるのがオチだ」
つまり、生き残っても──そのうち、ここで朽ち果てるってことか。
「まぁ、もう1ヶ月経っておるしの。今残ってるのは、仲間を喰って生き延びた奴だけだろう。もはや死に体じゃ」
おいグロー、食事前にそういう話すんな……。
俺も、サリィンも、コフィーヌも思いっきり顔をしかめた。
「なんだ? どうした、お主ら?」
「いや、共食いの話はやめてくれ……気分悪い」
「小型種じゃよくあることじゃろ?」
「想像しちまったじゃねーか!」
「はっはっは!繊細なんだのう、ほんに」
「お前がガサツすぎるんだよ!!」
そんなやりとりをしていると、坑道の分岐に差しかかった。
「ここが最初に見つかった穴……ですね」
サリィンが、興味深げにその小さな横穴を覗き込む。
「掃討作戦の最中、ここ以外にも通れそうな穴がいくつか見つかってます」
コフィーヌの説明によれば、木こりの町へ続く通路は全部で7箇所。
そのうち最大のものは、直径5メートル。荷馬車も通れる広さで、あの単眼鬼もそこを通ったのだろう。
「で、その穴はどこにあるんだ?」
グローとコフィーヌが地図を広げ、位置を確認する。
「すぐ近くです。荷馬車でも通れると思います」
「ふむ……狭いところはあるが、ワシが広げよう。まずはそこへ行くか」
というわけで、一行はさらに坑道の奥へと進むことに。
†
問題の穴に着いた瞬間、グローの顔色が変わった。
「なんじゃこの穴はあああ!!」
怒号が響く。どうやら、かなりご立腹らしい。
「掘り方がなっとらん! 壁はガタガタ、床は未舗装、魔法での補強も無し! 荷馬車通す気などゼロではないかあああ!」
「どういうキレ方だよ……。急いで掘ったんだろ、仕方ねぇだろ?」
「これだから狗鬼は!!!」
狗鬼への敵意が駄々漏れである。
だが、グローの言うことも一理ある。この作りでは、荷馬車を通すたびに事故が起きかねない。
「ウラグたち、馬も駄馬も持ってなかったようです。荷車は単眼鬼に引かせてたって話ですし」
「人が引くのか……いや、単眼鬼なら馬よりパワーあるな」
「はい。しかも、戦力にもなります」
なるほど。歩兵=黒醜人、騎兵の代わりが狗鬼、重火力担当に単眼鬼。
……合理的すぎて、なんか腹立つな。
「ウラグたちの問題は、兵力を維持するための兵糧じゃ」
「食料が足りなくなって、狗鬼があの村を襲ったってことか」
「街を狙うには準備不足であったろう。通常は兵四百が駐留してる。あの時は例外だて」
「城壁もある。攻城戦になるし、兵数三倍は必要だもんな。つまり、まだ兵を増やすつもりだったのか」
そんな話をしながらも、俺はその辺をぷらぷらしていた。
ここは第三坑道でも最大の空間で、ウラグの軍も塒にしてたらしい。
どことなく、生活臭がまだ漂ってる。
「我々は荷馬車を取ってきます。今夜はここに泊まりましょう」
「げ……マジで?」
この匂いの中で寝るのは、かなりキツい。
「先へ進んでも、広い場所はありません。このまま進んでも木こりの町に着くのは深夜過ぎになりますよ」
「うぐ……」
歩き続けるのも嫌だが、こんな不安定な穴で野宿なんて……落盤とかシャレにならんぞ。
「空気の流れは悪くないし、新鮮な風も入ってきとる。火を焚いても平気じゃ」
「水も充分あります。ここで泊まるのが一番かと」
「……うぅむ……」
森での野宿は慣れてるが、土の中は初体験だ。
音が無さすぎて逆に怖い。……けど、背に腹は代えられねぇ。
というわけで、俺たちはこの不気味な穴蔵で、一夜を明かすことにした。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
今回は「敵がどういうつもりで動いていたか」「この地形がどう使われたか」が浮かび上がってくるような回でした。
戦闘シーンがなくても、静かに“痕跡”が語るものってありますよね。
それと、ガルの「地中無理!臭い!静かすぎて怖い!」というリアクションが妙にリアルで、自分でもちょっと笑いました。
次回は、いよいよ木こりの町が近づいてきます。
そこで何が待っているか……お楽しみに。




