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お前に掛けたれた賞金は安いからいつもなら見逃すのだが  作者: Soh.Su-K
第一章 三節 軍令・調査依頼編

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第40話 過去の詮索は嫌いだ

少し期間が空きましたが、第40話です。

前回の調査依頼から続き、今回は“砦の中”へ。

新たな任務のはずなのに、ふとした会話からグローの過去や、王国という国の仕組みまでが垣間見えていきます。


ガルの過去についても、ちょっとだけ触れることになりますが……まぁ、あいつはそういうやつです。

詮索されたくないって気持ちは、きっと誰にでもあるんじゃないかと思います。

「そういや、この砦はどうするんだ?」


 俺は、あの一件以来そのまま放置されていた砦を見上げながら言った。

 狗鬼(コボルド)黒醜人(オーク)の死体は既に運び出され、()()されたらしい。

 広場にはどす黒く乾いた血痕と、毒液の色だけが無惨に残っている。


「急造の砦ですから、ほとんど全面的に改修が必要ですね。ここが、木こりの町へ向かう第一地中道(トンネル)になる予定です。坑道の拡張に壁面の強化、レールの敷設まで含めた大工事です。門も狭すぎますから、実質的には拡張工事でしょうね」

「えらく大掛かりな話だなぁ」

「司令本部の移転ですから。国家事業です」


 俺たち四人は砦の門をくぐった。


「コフィーヌ、中に入るのは初めてか?」

「はい。今までは街と砦の往復ばかりでしたので」

「外から見るより狭いだろ?」

「……ですね。もっと広いと思ってました」

「あまり広いと、弓に不慣れな奴じゃ当たらんからな。これでギリギリの幅よ」

「なるほど……」

「冒険者は一応、二日ほどの訓練はしたがな。結局は付け焼き刃だ、命中精度は低い。だったら、敵に近づくしかないからの」


 グローがコフィーヌに色々と教え始めた。

 教官の顔ってやつだな、あれは。

 なんだか楽しそうにすら見える。


「こういうの、好きなんだなあいつ」

「軍にいた頃は教育担当だったと聞いてます」

「……は?初耳だぞ?」

「ガル殿が昔話をしないから、自分もしないんだそうですよ」

「……グローらしいな」

「そういえば、ガル殿は昔は何をしてたんですか?」


 この質問は――一番、嫌いだ。

 そして俺の答えは、いつも決まっている。


「別に。特別なことなんかしてねぇよ。底辺で、泥水すすってただけさ」


 この一言で、みんな黙る。

 案の定、サリィンも気まずそうに目を逸らした。


「……意地悪な言い方だったか。悪い」

「い、いえ……その……」

「気にするな。詮索されんのが嫌なだけだ」

「……はい。すみません……」


 重い空気が漂いはじめた、まさにその時――


「なーにをモタモタしとるんだ、お主らは!さっさと来い!」


 グローが坑道の入り口で手を振っていた。

 ……こういう時の空気の読み方は、やけに上手い。


「中の掃除は終わってるのか?」

「一応は中央軍が掃討したらしいです。ただ、あまりに広すぎて、完璧とは言い難いかと」

「つまり、残党がまだいるかもってことだな」

「まぁ、ワシがおるから問題なかろう」

「だな」


 何とも気の抜けた会話だが、戦える奴が三人、しかも一人は地中構造に強い鉱矮人(ドワーフ)だ。

 俺はまだ満足に戦えないが……まぁ、何とかなるだろう。


「そういや、サリィンとコフィーヌって、得意武器は何なんだ?」


 ふとした疑問だった。

 人には向き不向きがある。武器だってそうだ。

 俺は刀。グローは双斧(ツインアクス)


「私たちは、“得意を作るな”と教わりました。兵士は状況に応じて、武器を使い分けられるべきだと」

「それは確かに、軍の教えだな」

「……でも、グローには双斧あるよな?」


 俺は、彼の背中にある斧を指差した。


「ワシはもともと王国軍ではない。鉱矮人の国の兵だった。王国に併合されて、勝手に王国軍になっただけよ」

「なんか……ややこしいな」

「だから辞めたんだ」

「未だに、軍内部では差別主義者も多いですからね……」


 サリィンの言葉には重みがあった。

 多分、本人たちも何度も差別されてきたんだろう。


 ――王国は元々、人間(ヒューム)の国だ。


 魔王軍との長い戦争の中で、他種族の国々を併合して巨大化したに過ぎない。

 しかし、実権を握っているのは今も人間ばかり。

 耳長人(エルフ)や鉱矮人が重職に就くなんて、今までも、これからもまずない。

 当然、国の中枢ほど他種族への差別意識は根強い。


「王国は、良い国ではある。だが、完璧ではない」


 グローのその一言は、誰の言葉よりも重かった。


 俺が差別に鈍感なのは、貧民窟(スラム)出身で底辺だったからだろう。

 生きるのに必死だった。人の種族なんて、どうでもよかった。

 だがその反面、自分の命を軽く扱う癖がある――と、グローに言われたこともある。


 だから、最初にグローから言われたのは『自分を守れ』だった。


「まぁ、何にしても――完璧なもんなんて、どこにもねぇよ」

「だな。ワシもそう思う」


 くだらない話を交わしながら、俺たちは坑道の奥へと足を進めていった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


今回は「語られざる過去」や「種族間の距離感」が、会話の中で自然と見えてくるような構成を意識しました。

重いテーマではありますが、砦の探索という“今”に支えられた地に足のついた話になっていれば幸いです。


次回は、坑道の奥へと進んでいきます。

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