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お前に掛けたれた賞金は安いからいつもなら見逃すのだが  作者: Soh.Su-K
第一章 三節 軍令・調査依頼編

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第39話 特務の軍令なんて聞いてない

第39話 特務の軍令なんて聞いてない


「お待ちしておりました、ガル殿」


 支部の事務所を訪れた俺を、サリィンがにこやかに迎えた。


 あの共同作戦から、もうひと月。俺の怪我はまだ完治しておらず、ギルドでは簡単な採取任務ばかりだ。


 貯金はあるから食うには困らんが、体が鈍って仕方がない。


 そろそろギブスを外せるだろうとゼペットに訊いたら、「まだ早い、綺麗に繋がらん」と怒られた。


 で、仮に外したとしても、今度はリハビリだ。もう一ヶ月も動かしてないんだ、指なんか硬くなってるに決まってる。


 グローはというと、ソロで依頼をこなしてて、報酬の一部を律儀に俺に分けてくれる。


 ありがたいっちゃありがたいが、そんなことされると余計に暇が際立つってもんだ。


 ――つまり、俺は、暇だ。


 そんな俺を見かねてか、サリィンから「頼みがある」と呼び出された。ありがたいような、面倒なような。


 まったく、俺の周りはお節介なやつばかりだ……。


「頼みたい事って何だ? サリィン」


「えぇ、こちらへどうぞ。コフィ、お茶を頼む」


「了解しました」


 奥の応接室に通される。これはただ事じゃなさそうだ。


「どうぞ、お座りください」


「……なんだ? あそこで話せない内容か?」


「えぇ、ちょっと込み入った話でして。とりあえず、こちらをご覧ください」


 サリィンは大きな地図を広げた。


「これは……?」


「例の、木こりの町の全体図です」


「ああ、魔王軍が要塞化しようとしてたあそこか」


「その通りです。山や森に囲まれたあの土地に、新たな東方司令部の本部を移転するという計画が出まして」


「は? 本部を移すのか? 急すぎだろ」


 今の本部は東都にある。立地的にも文句なしだと思ってたが――。


「私も最初は驚きました。でも、どうやら現本部はもう手狭らしくて、魔王軍の残党も王都から遠い東部で活発化しているそうです」


「なるほど。だったら、より東にある木こりの町に大きい施設を建てたいってことか」


「そういうことになります」


「でも問題は、どの町からも遠いってことだな」


「それで、魔王軍の計画を一部採用するそうです」


「魔王軍の案?」


「地中連絡路の建設です。荷馬車が四列通れるような大型から、徒歩専用の小型まで整備するとのことです」


「なるほどな。だったら、線路も通した方がいい。輸送効率が段違いだ」


「さすがですね、ガル殿。その点も含めて参考にさせていただきます」


「で、本題はその話か?」


「いえ、これは前置きです。本題は、現地調査の手伝いをお願いできないかと」


「軍からの依頼ってことか……」


「今夜にでもグローに話す。多分、引き受ける方向になるだろう。ただ、ひとつ聞きたい」


「なんで軍人じゃない俺とグローを選んだ? 情報漏洩のリスクもあるのに」


「……まったく、ガル殿は鋭いですね。上将軍閣下も、そこを突かれるだろうと予測しておられました」


「上将軍の指名か、これ?」


「はい。お二人の指名は、他でもない上将軍閣下からのご意向です」


「俺たちにそんな価値があるとは思えんけどな」


「ガル殿は思いつきでトロッコの案を出しました。それを高く評価されています」


「それは……適当だっただけなんだけどな」


「適当でも有用なら、それで十分です」





「なーんでワシまで行くハメになるんだ……」


 翌日、街の北門。俺、グロー、サリィン、コフィーヌの四人で出発することになった。


 北の山を大きく迂回して、木こりの町に西から入るルートをとるらしい。片道一週間以上はかかる。


「上将軍の指名らしいから、仕方ないだろ?」


「フン!」


「ソロで依頼やるよりは楽じゃねぇか。報酬も悪くねぇし」


「軍の手先になるのが気に食わんのだ」


「元軍人のくせに」


「元軍人だからだ!」


 文句を言いながらも荷物の準備はきっちりしてるあたり、根は真面目なんだよな。


「そういやコフィーヌ、昇進おめでとう」


「ありがとうございます。でも、私は何も……」


「連絡役も大事な役目だ。素直に喜べ」


「サリィンに言えた義理じゃないだろ」


「なっ!?」


「謙遜も度が過ぎると舐められるぞ、少尉殿?」


 俺の助言に、サリィンは苦笑いするしかない。


「それより、本当に北回りで行くのか?」


 グローが不満そうに聞いてくる。


「回り道すぎる。あの村の坑道を通った方が早くねぇか?」


「お、それいいな。行こう行こう」


 そう言うが早いか、グローは南へ歩き出した。


「ちょ、グロー殿!? 調査機材もあるんですよ? 荷馬車は坑道通れませんって!」


「なら()()()()()()()()だけだのぉ。行くぞー!」


「グロー殿ぉぉぉ……!」


「もうああなったら止まらん。行くしかないな」


 サリィンは肩を落とし、しぶしぶ馬車の進路を南へと切り替えた。

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