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お前に掛けたれた賞金は安いからいつもなら見逃すのだが  作者: Soh.Su-K
第一章 二節 狗鬼討伐依頼編

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第37話 荷台で祝宴とはな

「で、結局『少尉』ってどれだけ偉いんだ?」


 俺は帰りの荷馬車の中でグローに聞いた。

 聴取――ただの御前裁判だったがな――も終わり、サリィンだけは諸々の事務処理のため王都へ残ったが、その他は翌日には王都を発った。


「よく分かっとらんのか」


 グローが呆れた様子で俺を見た。


「軍属でもないんだから分かる訳ねぇだろ」


「少尉ってのは、魔王軍でいう百人長くらいじゃな。士官学校を出たエリートはこの階級から始まるが、現場叩き上げでそこまで行く奴は珍しい」


「へぇ、じゃあサリィンもエリートの仲間入りってわけか!」


「いや、むしろここからが大変じゃろう。()()()()()()()()。特に戦後配属組への目は厳しい」


「軍もめんどくせぇな」


「だからワシは辞めたんじゃ」


「納得だな……」


 実際、トールズのあの態度を思い出せば、グローの言うことにも頷ける。


「そういや、セリファ。初めての王都はどうだった?」


「え? どうって……あれだけ慌ただしくされて観光も何もなかったし……」


 セリファは肩を落とす。

 王都には夜遅く到着し、そのまま軍の宿舎へ直行。裁判が終わった後も時間がほとんどなく、すぐに追い出されるように中枢区を出てきた。

 商業区をぶらつく暇もなかったのだから、無理もない。


「俺も観光くらいはできるかと思ってたんだがな。ついでにコフィーヌも昇進して、残ることになったし」


 コフィーヌはサリィンの副官として残ることになった。耳長人エルフ同士、同期ということもあり、最も信頼しているらしい。


「まぁまぁ、そんなに落ち込まないでくださいな」


 そう言って笑ったのはピュートだ。顔が緩みっぱなしだ。


「ピュート、お前は今回でだいぶ儲かったんじゃねぇのか?」


「そ、そんなことないですよ~エヘエヘ……」


「ニヤけ過ぎだのぉ」


「だって、商会への報奨金の半分が私にって言われちゃったら、そりゃあねぇ?」


 ピュートはすっかり上機嫌だ。

 商会の上司が撤退準備を始めていたのを押し切り、弓矢と毒ポーションを大量に仕入れて砦に供給したのはピュートの独断だったらしい。

 その判断が功を奏し、上層部も無視できなくなった結果、今回の手柄は彼に丸ごと渡る形となった。


「大博打だったな」


「街が落ちてたら私は死んでますし、請求もへったくれもないですからね!」


 笑っていいのか分からん豪胆さだ。


「そういえば、ベルベット」


 俺はふと思い出して、本を読んでいたベルベットの方を向いた。


「ギルドの報奨金って、どう分けられるんだ?」


 ベルベットが顔を上げた。


「参加した冒険者全員に均等分配よ。その方が不満も出にくでしょ」


「ありがてぇ話だな」


「それはそうと、帰りは楽しく行きましょう!」


 ピュートが小さな木箱をゴソゴソと開けた。中から酒瓶と、ずっしりした肉の塊が出てくる。


「おお!酒か!」


 グローが真っ先に食いついた。


「え? 馬車の中で飲むの……? 揺れるし、なんか別の意味でも酔いそう……」


「火を通さなくても美味しいお肉もありますよ! これは特別な生ハムなんです!」


「おっ、生ハムの原木か! すげぇな!」


 俺は手に取ったそれをじっと眺めた。骨付きで、重量感がある。これをナイフで薄く切って食べるのが通の食べ方らしい。


「こんなの見たことない……」


 セリファが驚いたように見つめている。


「大将の店じゃ扱えねぇもんな」


「ウチにも卸してよ!」


「一応、商会の流通にありますが、王都近郊以外にはなかなか回らないんですよ。地方は輸送コストが……」


 残念そうなピュート。


「……美味しいの?」


「それはもう!」


 俺はいつもの投げ小剣を取り出し、原木から一枚、そっと切り取った。

 それをセリファに手渡す。


「ガル……」


「あん?」


「その小剣って、矮鬼(ゴブリン)とか黒醜人(オーク)に刺してた奴だよね……?」


「バッカ、ちゃんと洗ってるって」


「いや、そうだろうけど……」


「文句言うなら俺が喰う!」


 そう言って、セリファが摘まんでいた生ハムを俺が横取りする。


「ちょっと!」


「……うまっ!」


 ねっとりと舌に絡む旨味、芳醇な塩気、熟成された香り……最高だ。


「これをご所望ですかな?」


 グローが気取った声で葡萄酒の瓶を差し出してきた。すでに栓は開けられている。


 一口飲んだだけでわかる、これは高級品だ。

 白葡萄酒の柔らかい酸味と果実味が、脂の甘味を引き立てる。完璧な組み合わせだ。


「……最高」


 うっとりと呟いた俺の横で、セリファが膨れている。


「セリファ殿、こちらをどうぞ」


 ピュートが、食用の専用小剣で切った生ハムを丁寧に皿に盛って差し出した。


「ありがとうございます!」


 嬉しそうに受け取るセリファ。

 ベルベットも本を閉じ、葡萄酒を片手に輪に加わる。

 こうして帰りの荷馬車は、ささやかな祝勝会の場となった。

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