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お前に掛けたれた賞金は安いからいつもなら見逃すのだが  作者: Soh.Su-K
第一章 二節 狗鬼討伐依頼編

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第35話 めんどくせぇ事になった

「完治するまで禁酒」――そんな忠告はどこへやら。

二日酔いで目覚めた朝、ベッドの隣にはセリファ。そして扉の向こうにはサリィン。

休むはずだったガルの一日が、またしても“めんどくせぇ”方向へと転がっていきます。

 喉の奥が焼けるように熱い。

 二日酔いでガンガンに痛む頭を押さえながら、俺はようやくベッドの上に身を起こした。


「……またやっちまったか」


 気だるい身体を揺らしてベッドの下に足を下ろし、ふと隣を見やる。

 やはりというか、予想通りというか、セリファがシーツを肩まで引き寄せて眠っていた。

 静かな寝息を立てている彼女の顔を見ながら、俺は額に手を当てて溜息を吐いた。

 ゼペットのじいさんに言われてたんだ――「完治するまで酒は厳禁」って。

 それでも、つい手が伸びてしまった。あの戦の後、色々と溜まっていたのは事実だ。

 咥えていた紙巻煙草に火を点けつつ、まだ重たい頭を引きずりながら、ドアの前に立つ。

 ノック音がまだ耳に残っている。訪問者は誰だ?


「はいはい、どちら様ですかっと……」


 上半身裸のまま扉を開けると、そこにはきっちり制服を着込んだサリィンの姿があった。

 ピンと背筋を伸ばし、申し訳なさそうに眉を下げている。


「ガル殿、失礼いたします。……まだお休み中でしたか」

「ああ……まあ。で、何の用だ?」

「申し訳ありませんが、本日、王都へ出頭することになりまして。可能であれば、同行していただけませんか?」

「……は?」


 言葉の意味を理解するまでに、数秒を要した。


「なんで俺が?」

「先の戦闘に関する事情聴取です。関係者として、どうか()()していただけませんでしょうか」

「加勢、ねぇ……嫌な響きだな。グローを連れて行けばいいだろ、あいつの方が百倍喋れる」

「グロー殿にもご同行いただきます。ですが、単眼鬼(サイクロプス)の存在を最初に確認したのはガル殿。加えて、ギルド協力の案も貴殿から出されました」

「……めんどくせぇな」

「関係者として、ギルドのベルベット殿とピュート殿も同行予定です。昼過ぎに発ちますので、それまでに支所までお越しください。では、お邪魔致しました、()()()


 サリィンはにっこりと微笑む。

 その視線が俺の肩越しに、ベッドの上で眠るセリファの方を見ていたことは間違いない。


「あ……」


 やられた。

 なんとも食えない耳長人(エルフ)だ。俺は煙草をくゆらせながら、苦笑した。


「バレてたのね……」


 シーツを肩からずらしながら、セリファが起き上がってくる。


「起きたか」

「うん。……王都に行くの?」

「ああ。サリィンに呼ばれちまってな。何かしらの聴取らしい」

「いいなあ、王都……私も行ってみたい」


 セリファがぽつりと呟いたのを聞き、俺はふと思い立った。


「……一緒に来るか?」

「え?」

「大将には俺が言っとく。旅は道連れってやつだ。来いよ」

「ちょ、ちょっと!勝手に決めないで!」

「行きたくないのか?」

「……行きたい」

「よし、決まりだ!」



「大丈夫ですよ」


 サリィンが微笑みながら言った。


「入城手形には『関係者一行』とだけ記されています。人数の指定もありませんので、セリファ殿も同行可能です」


 あっさり許可が下りたことに、逆にこちらが困惑してしまう。


「……なんとも杜撰(ずさん)だな」


 グローが呆れ顔で言う。


「むしろ、何人入り込もうと即座に()()できるという自信の表れだろ?」

「物騒な話をサラッとするでない……」

「では、軍以外の関係者は、ガル殿、グロー殿、ベルベット殿、ピュート殿、セリファ殿の五名。軍からは私とコフィーヌ、トウラ文官が同行します」


 こうして、王都へ向けた旅路が始まった。

 馬車は二頭立ての荷車。御者はサリィンたち軍人組が交代で務める。

 道中は王国の管理する主要道で、広く整備された石畳が続いている。


「なんとも呑気な旅だのぉ」


 パイプをふかしながらグローが言う。


「おい、煙が籠るだろ! 吸うな!」

「けちぃ……」


 文句を言いつつも、渋々パイプをしまう。


「ところで、サリィン」

「はい?」

「案の定、襲撃されたそうだな」

「ええ。護送中に襲撃を受けましたが、対処済みです。捕らえた者はすでに()として王都へ送りました」

「……襲撃?誰がだ?」

「分からんか、ガル。中央軍じゃよ。手柄をサリィンに持ってかれて、苛立っておるのじゃ」

「はああああああ!?」

「ギルドとの協力が陛下に報告されていたにも関わらず、中央はそれを無視して独断で動いた。そして、護送中の部隊を襲った。……これは無視できん」

「なるほどな。で、今回の聴取ってのは、その辺の泥仕合の火消しか」

「というより、火の粉がどこまで飛ぶか見届ける会じゃな」


 グローが愉快そうに笑う。

 どうやら、俺たちはとんでもなく面倒な()()に向かっているらしい。

二日酔いで目覚めた朝、なしくずしにセリファを道連れにするガル。

向かうのは事情聴取――のはずが、どうにも雲行きが怪しい。

のんきに観光気分で済むような場所じゃ、なさそうです。



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